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自宅で個人塾を開業する|用途地域・住宅ローン控除・損益分岐まで確認する

自宅での開業は、塾という事業の中で最も小さく始められる形です。固定費が家賃のぶんだけ軽くなり、続けられなかったときに出ていく現金も小さく抑えられます。

ただ、この手軽さには前提があります。その住所で塾を開いてよいか、いまの賃貸契約や住宅ローンの条件に反しないか。どれも部屋を用意したあとで気づくと、取り返しがつきにくい論点です。

用途地域、賃貸借契約、住宅ローン控除、家事按分。部屋を用意する前に確かめる順に並べました。自宅の条件で成り立つ損益分岐生徒数も出します。

自宅の一室を学習スペースにした部屋。机と椅子、小さなホワイトボードと本棚
※写真はイメージです。特定の教室や事例を示すものではありません。

SHORT ANSWER

結論から。 自宅塾で先に確認すべきは、資格ではなく「その部屋をその用途で使えるか」です。 建築基準法の用途地域、賃貸なら契約、集合住宅なら管理規約。この3つはいずれも、生徒を募集してからでは動かせません。 そのうえで、当社のモデルケースでは自宅型の損益分岐は11人です。小型テナント型の32人と比べて、届く難しさが大きく違います。

確認の順序は第1章、条文は第2章、損益分岐は第5章で扱います。開業手続き全体の流れは開業ガイドにまとめています。

1. 自宅塾で最初に潰す、4つの論点

自宅開業を扱う記事の多くは「資格は不要」「開業届1枚でよい」から始まります。手続き自体はそのとおりです。ただ、自宅を使うという一点によって、テナントを借りる場合には出てこない論点が4つ生まれます。

論点 何を確認するか 確認先
用途地域 その地域でその使い方が認められるか 自治体の建築指導担当課
賃貸借契約 住居用の契約で事業に使えるか。貸主の承諾が要るか 貸主・管理会社
管理規約 集合住宅で営業行為が制限されていないか 管理組合
住宅ローン控除 居住用部分の割合が要件を下回らないか 税務署・税理士

4つとも、あとから戻せません

机や椅子は買い直せますが、用途地域と契約は、生徒を集めてから変えられません。すでに通っている生徒がいる状態で「この部屋は使えない」と分かると、行き先を用意しないまま止めることになります。部屋を整える前に、この4つを先に片づけてください。

なお本ページで扱うのは自宅に固有の4点です。消防法上の取り扱いと、こども性暴力防止法にもとづく制度への対応は、自宅かテナントかを問わず必要になります。これらは開業ガイドの第2章第7章で扱っています。

2. 用途地域は、部屋を用意する前に確認する

建物には、都市計画で定められた用途地域ごとに「建てられるもの」の制限があります。住宅地として最も制限が強いのが第一種低層住居専用地域です。

建築基準法 別表第二(用途地域等内の建築物の制限・第27条、第48条、第68条の3関係)では、第一種低層住居専用地域に建築できる建築物が号ごとに列挙されています。自宅塾に関係するのは次の3つです。

条文(第一種低層住居専用地域に建築できるもの)
第一号 住宅
第二号 住宅で事務所、店舗その他これらに類する用途を兼ねるもののうち政令で定めるもの
第四号 学校(大学、高等専門学校、専修学校及び各種学校を除く。)、図書館その他これらに類するもの

学習塾は、施行令に名指しで書かれている

第四号に「学校」とありますが、ここでいう学校は学校教育法上の学校を指すと解されます。学習塾はこれに当たりません。当たるのは第二号の兼用住宅のほうです。

第二号の「政令で定めるもの」の中身は建築基準法施行令 第130条の3(第一種低層住居専用地域内に建築することができる兼用住宅)にあり、そこに学習塾が名指しで挙げられています

延べ面積の2分の1以上を居住の用に供し、かつ、次の各号のいずれかに掲げる用途を兼ねるもの(これらの用途に供する部分の床面積の合計が50平方メートルを超えるものを除く。)

第六号 学習塾、華道教室、囲碁教室その他これらに類する施設

建築基準法施行令 第130条の3(第一種低層住居専用地域内に建築することができる兼用住宅)

つまり第一種低層住居専用地域であっても、次の2つを満たす兼用住宅であれば、学習塾は建築できるものとして条文に位置づけられています。

  1. 延べ面積の2分の1以上を居住の用に供していること
  2. 塾に使う部分の床面積の合計が50平方メートルを超えないこと(約15坪)

この50平方メートルという上限が、自宅塾の規模を実質的に決めます。要件を超える規模にする場合は、第二種低層住居専用地域以降で認められる店舗等(店舗、飲食店その他これらに類する用途に供するもののうち政令で定めるもので、その用途に供する部分の床面積の合計が150平方メートル以内のもの(3階以上の部分をその用途に供するものを除く))の扱いを検討することになります。

確認するときの聞き方

窓口では「塾を開けますか」ではなく、次の3点を具体的に伝えると話が早く進みます。

  1. 住所と用途地域。その土地がどの用途地域に指定されているかは、多くの自治体が都市計画情報として公開しています。先に調べてから行くと確認が早くなります
  2. 使う部屋の床面積と、建物全体に占める割合。兼用住宅として扱えるかは、事業用部分の広さが関係します
  3. 同時に何人を受け入れるか、看板を出すか。規模と外観の変更の有無で判断が変わることがあります

出典: 建築基準法 別表第二(用途地域等内の建築物の制限・第27条、第48条、第68条の3関係)および建築基準法施行令 第130条の3(第一種低層住居専用地域内に建築することができる兼用住宅)。いずれも条文をe-Gov法令検索(昭和25年法律第201号)から当社が直接取得して確認しました(2026年8月)。本ページは条文の所在を示すもので、個別の可否を判断するものではありません。

3. 用途地域に問題がなくても、契約と管理規約で止まることがある

用途地域の問題がなくても、その部屋を使えるとは限りません。物件の権利関係によって、確認する相手が変わります。

住まいの形 確認すること
賃貸の戸建て・アパート 賃貸借契約の用途条項。住居専用となっている場合、事業利用には貸主の承諾が要ります
分譲マンション 管理規約。専有部分の用途が住宅に限定されている場合や、営業行為が禁じられている場合があります
賃貸マンション 賃貸借契約と管理規約の両方。どちらか一方だけでは足りません
持ち家の戸建て 用途地域。契約上の制約はありませんが、建築基準法の制限は同じようにかかります

承諾を得るときは、口頭ではなく書面で残してください。貸主が変わったとき、口頭の合意は引き継がれないことがあります。

断られた場合でも、条件つきで認められることがあります。生徒の人数を限る、看板を出さない、指導の時間帯を決める、といった条件です。最初から「何人まで、どの時間帯で」を示して相談すると、話が進みやすくなります。

4. 住宅ローン控除の要件に、床面積の条件がある

自宅の一部を塾に使うと、住宅ローン控除に影響する場合があります。これは自宅開業に特有の論点で、テナントを借りるなら発生しません。

ここでは、令和4年以降に新築等をして居住の用に供した場合を定めた国税庁 タックスアンサー No.1211-1「住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」を例に、居住用割合の要件を確認します。居住した年や住宅の種類(新築・買取再販・中古・増改築等)によって参照すべきページは分かれるため、自分がどれに当たるかは併せて確認してください。

同ページの適用要件「(1)下記(2)以外の場合」より

住宅の床面積が50平方メートル以上であり、かつ、床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること

同ページには、特例居住用家屋または特例認定住宅等について、床面積40平方メートル以上50平方メートル未満とする別の要件(合計所得金額の上限も異なる)も定められています。

国税庁 タックスアンサー No.1211-1「住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」(令和7年4月1日現在法令等)

つまり、床面積の半分以上を居住用として使っている必要があります。ワンルームや小さな住戸の一室を塾にする場合、この割合が問題になることがあります。

あわせて、床面積の要件(50平方メートル以上)を判定するときは、店舗や事務所などと併用の住宅について、その部分も含めた建物全体の床面積で見るとされています。これは面積要件の判定方法であり、居住用割合をどう算定するかは利用の実態によって変わります。

控除を受けているなら、転用の前に

自宅の一部を塾に転用すると、居住用部分の割合が要件を下回る可能性があります。床面積の判断では、店舗や事務所などと併用の住宅は、その部分も含めた建物全体の床面積で判断するとされています。控除を受けている、または受ける予定がある場合は、転用の前に税務署または税理士へ確認してください。

出典: 国税庁 タックスアンサー No.1211-1「住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」。当社が国税庁のページを直接取得して確認しました(2026年8月)。税務の取り扱いは個別の事情で変わります。本ページは要件の所在を示すもので、個別の判断を行うものではありません。

5. 自宅型は、11人で成立する

法令と契約が問題ないと分かったら、次は数字です。自宅型の利点は固定費の軽さですが、それが具体的に何人ぶんの差になるのかを見ておきます。

損益分岐に必要な生徒数 自宅型 11人 小型テナント型 32人 月次固定費を1人あたり限界利益17,500円で割った人数 半年で撤退した場合の累計支出(売上を含まない) 自宅型 208万円 部屋を元に戻すだけ。賃料の支払いは続かない 小型テナント型 896万円 原状回復と、解約予告期間の賃料が別に出る 初期費用 固定費6か月 撤退費用

この図の読み方

自宅型の利点は初期費用の小ささよりも、やめるまでに出ていく現金の小ささにあります。 半年間赤字のまま撤退した場合の累計支出は、自宅型が208万円、小型テナント型が896万円で、 差は688万円です。 成立に必要な生徒数も11人と32人で、届く難しさが違います。

前提: 生徒1人あたりの月間限界利益を17,500円、 月次固定費を自宅型180,000円・小型テナント型560,000円、 初期費用を自宅型1,000,000円・小型テナント型4,200,000円として計算しています (塾経営のページおよび開業ガイドの費用の章と同じ前提です)。 撤退費用は小型テナント型のみ、原状回復800,000円と解約予告期間の賃料600,000円の合計1,400,000円をモデルとして置いています。
この金額は「累計の支出」であり、そのまま損失額ではありません。売上を含まず、敷金・保証金の返還、什器や教材の売却・転用も差し引いていない、保守的な置き方です。 いずれも当社が置いたモデルであり、実際の契約条件ではありません。 原状回復の範囲と解約予告期間は賃貸借契約によって大きく異なります。自宅型でも、 賃貸物件や集合住宅では契約・規約上の制約が別に生じます(本文第2章)。

この図で見てほしいのは、上段の生徒数より下段の累計支出です。自宅型の本当の利点は、始めるときの安さよりもやめるまでに出ていく現金の小ささにあります。なおこの金額は累計の支出であって、そのまま損失額ではありません。売上や敷金の返還は含めていない保守的な置き方です。テナント型は、原状回復と解約予告期間の賃料が撤退時に別途かかります。

言い換えると、自宅型は条件を満たせば、テナント型より支出を抑えて検証しやすい形です。商圏に需要があるか、自分の指導が支持されるかを、より小さい支出で確かめられます。ただしこれは法令・契約・近隣との関係が整っている場合の話で、契約違反や近隣トラブルが起きれば損失は限定されません。

自分の数字で計算し直してください

この11人という数字は、月次固定費180,000円・1人あたり限界利益17,500円という当社のモデルから出したものです。自宅の光熱費の増分、教材費、広告費、そして自分の生活費をどこまで含めるかで変わります。収支シミュレーターに自分の数字を入れて確かめてください。

6. 通塾率は都市規模で2倍以上ひらく

損益分岐が11人でも、その11人が商圏にいなければ成立しません。自宅は場所を選べないという制約があるため、ここは特に重要です。テナントなら立地を選べますが、自宅は所与です。

学習塾費を支出した世帯の割合(市町村の人口規模別) 濃い色が中学校、薄い色が小学校。2016年度 5万人未満 52.8% 22% 5万人以上15万人未満 64.3% 32.4% 15万人以上 73.1% 37.5% 指定都市・特別区 79.4% 52.5% いちばん小さい町といちばん大きい市で、中学校は1.5倍、小学校は2.4倍ひらきます 自宅開業は場所を選べません。同じ集客をしても、届く母数がこれだけ違います

読み方 人口5万人未満の町では、中学生の家庭のうち学習塾費を支出しているのは52.8%です。指定都市・特別区では79.4%になります。小学校ではその差がさらに大きく、22%と52.5%です。自宅で開くと商圏を選べないため、この差は損益分岐生徒数に届くかどうかに直結します。

出典: 文部科学省「子供の学習費調査」(平成28年度)(統計表ID 0003368820・0003368821)。政府統計の総合窓口(e-Stat)のAPIから当社が取得し、倍率は当社で算出しました。 公立校に通う子供の保護者のうち、学習塾費を支出した者の割合。学習塾費には塾以外の学習支援費が含まれる場合がある。通塾している児童生徒の割合そのものではありません。

文部科学省「子供の学習費調査」(平成28年度)によると、塾に通う割合は市町村の人口規模で大きく変わります。

所在市町村の人口規模 小学生 中学生
5万人未満 22% 52.8%
5万人以上15万人未満 32.4% 64.3%
15万人以上 37.5% 73.1%
指定都市・特別区 52.5% 79.4%

小学生では、人口5万人未満の市町村が22%であるのに対し、指定都市・特別区は52.5%。2倍以上の開きがあります。中学生でも52.8%と79.4%で1.5倍違います。

ここから読み取れるのは、地方の商圏では小学生を主対象にした設計が成立しにくい場合があるということです。同じ11人でも、対象学年の選び方によって届く難しさが変わります。人口規模の小さい地域では、通塾率の高い中学生を軸にするほうが現実的です。

商圏の見立てかた自体は開業ガイドの商圏の章で扱っています。自宅の場合は、そこで出した獲得可能生徒数が11人を超えるかどうかが判断の線になります。

出典: 文部科学省「子供の学習費調査」(平成28年度)(統計表ID 小学校 0003368820 / 中学校 0003368821)。公立校に通う子供の保護者のうち、学習塾費を支出した者の割合。学習塾費には塾以外の学習支援費が含まれる場合がある。

7. 教室と生活空間を分けるのは広さではなく動線

自宅塾で最も差が出るのは、部屋の広さではなく動線です。生徒と保護者が、家族の生活空間をどれだけ通らずに教室へ入れるか。ここが設計の中心になります。

同じ間取りでも、入口をどこにするかで通る場所が変わる 点線が生徒の動線。当社の整理であって、建築や法令上の基準ではありません 生活空間を通る場合 リビング 教室 洗面・浴室 玄関(共用) 通らない場合 生活空間 教室 専用の出入口 広さではなく、生徒が生活空間を通るかどうかで負担が変わります 通る場合は、授業時間帯に家族の行動が制限されます。長く続けるほど効いてきます

読み方 左は玄関から教室まで、リビングの前を通る間取りです。授業のたびに家族が席を外すか、生活音を抑えることになります。右は教室に直接入れる間取りで、生活空間と交わりません。 部屋の広さが同じでも、この違いは毎日続きます。物件を決める前に、玄関から教室までの経路を実際に歩いてみてください。トイレをどちらで使ってもらうかも、同じ理由で先に決める項目です。

当社の整理です。統計ではなく、間取りの一例として描いたものです。建築基準法や消防に関する要件を示すものではありません。 用途地域と賃貸借契約・管理規約で開業できるかどうかは、この動線とは別に確認が必要です。

  1. 入口から教室までの経路 玄関から直接入れる部屋があるかどうかで、負担がまったく変わります。リビングを横切る動線しか取れない場合、家族の生活時間と授業時間が毎日ぶつかります
  2. トイレと洗面 生徒が使う場所を決め、そこまでの動線も確認します。家族の私物が目に入る場所は避けたほうが無難です
  3. 保護者との面談場所 教室で行うのか、別室を使うのか。面談は入塾前と定期面談で必ず発生します
  4. 送迎のときの待機場所 車の停車位置は近隣トラブルの原因になりやすい部分です。開業前に近隣へ一声かけておくと、問題が起きたときの解決が早くなります
  5. 授業の声、生徒の出入り、椅子を引く音。集合住宅では特に、下階と隣戸への配慮が要ります

家族の同意は、始める前に取っておく

自宅塾は、家族の生活時間に他人が入ってくる形です。授業のある曜日と時間帯、生徒の人数、面談の頻度を具体的に共有してから始めてください。続けられなくなる理由として、収支より家庭内の負担が先に来ることがあります。

8. 自宅であることは、隠すより開くほうが伝わる

保護者にとって、自宅の塾は「実態がわかりにくい」対象です。看板がなく、外から中が見えず、運営者がどんな人か分からない。この不安は自然なものです。

これを打ち消す方法は、自宅であることを曖昧にすることではありません。曖昧にするほど不信は強くなります。むしろ具体的に開示するほうが伝わります。

  • 運営者の経歴と指導方針。どこで何を教えてきたか、なぜこの形にしたか
  • 教室の写真。実際に生徒が座る場所を見せます。生活感を消す必要はありません
  • 受け入れ人数の上限。「最大◯人まで」と示すことは、少人数であることの価値の説明になります
  • 面談の場所と連絡手段。いつ、どこで、どう連絡が取れるかを明示します
  • 体験授業。実際に来てもらうことが、最も強い説明になります

少人数で目が届くこと、講師が変わらないこと、振替に融通が利くこと。これらは大手にない価値です。自宅であることは、その価値の裏返しでもあります。

9. 家事按分は、割合の根拠を残す

自宅を事業に使うと、家賃・光熱費・通信費の一部を必要経費に算入できる場合があります。生活と事業で共用しているため、事業に使った部分を合理的な基準で分ける必要があります。これを家事按分と呼びます。

よく使われる基準は、床面積の割合使用時間の割合です。教室として使う部屋の面積が全体の何割か、週に何時間使うか。どちらを使っても構いませんが、割合を出した計算そのものを残しておいてください。面積なら間取り図と各部屋の㎡数、時間なら週の使用スケジュール。税務調査で問われるのは割合の数字ではなく、その数字をどう出したかです。

ここは税務署または税理士に確認してください

按分の考え方や認められる範囲は、事業の実態によって判断が変わります。本ページでは一般的な考え方の所在を示すにとどめます。具体的な割合や計上の可否は、税務署または税理士にご確認ください。あわせて、第4章の住宅ローン控除との関係も同時に相談すると、判断がぶつかりません。

なお、自宅開業でも賠償責任保険は検討しておくことをおすすめします。生徒が教室で怪我をした場合、自宅であっても事業者としての責任は生じ得ます。個人賠償責任保険では事業活動が対象外になっていることがあるため、加入している保険の適用範囲を確認してください。

10. 手狭になったあとを、先に決めておく

自宅型は、うまくいくほど早く上限に当たります。部屋の広さと、家族の生活が許容できる範囲。この2つが受け入れ人数の天井を決めます。

天井に当たってから考え始めると、選択肢が限られます。次の3つを、始める前に決めておいてください。

  1. 何人までで止めるか 部屋の広さと生活の許容範囲から、上限を決めます。決めていないと、断るべき場面で断れません
  2. 上限に達したらどうするか 待機にする、時間帯を増やす、単価を上げる、テナントに移る。それぞれ必要な準備が違います
  3. テナントに移る場合の損益分岐 自宅型の11人から小型テナント型の32人へ、必要な在籍が3倍近くになります。移った瞬間に赤字へ戻る可能性があるため、移る前に何人まで増やしておくかを決めておきます

単価を上げるという選択も現実的です。受講生1人あたりの実効単価は、政府統計から割り戻すと月39,585円になります。人数を増やさずに、季節講習や教材の設計で単価を上げる余地があるかを見てください。この考え方は塾経営のページで扱っています。

複数教室に広げる段階になると、判断の軸が変わります。法人・多店舗のページで、複数教室のオーナー型損益を扱っています。

11. よくあるご質問

自宅で塾を開業するのに資格や許可は要りますか。
学習塾の開業そのものに国家資格や営業許可は原則として必要ありません。個人事業として始める場合は税務署へ開業届を出します。ただし自宅の場合、資格とは別に確認が要る点があります。建築基準法上の用途地域でその使い方が認められるか、賃貸なら契約上その用途で使えるか、集合住宅なら管理規約に反しないかです。いずれも部屋を用意する前に確認してください。
第一種低層住居専用地域の自宅でも塾を開けますか。
条件を満たせば建築できるものとして条文に位置づけられています。建築基準法別表第二(い)項第二号の「政令で定めるもの」は建築基準法施行令第130条の3で定められており、その第六号に「学習塾、華道教室、囲碁教室その他これらに類する施設」が挙げられています。ただし要件があり、延べ面積の2分の1以上を居住の用に供し、かつ塾に使う部分の床面積の合計が50平方メートルを超えないことが必要です。この規模を超える場合は別の扱いになります。判断や運用は自治体によって異なるため、物件を決める前に自治体の建築指導担当課へ確認してください。
賃貸マンションの自室で塾を開いてもよいですか。
賃貸借契約と管理規約の両方を確認する必要があります。住居として借りている物件は用途が住居に限定されていることが多く、無断で事業に使うと契約違反になる可能性があります。分譲マンションでも管理規約で営業行為が制限されている場合があります。貸主や管理組合への確認は、生徒を募集する前に済ませてください。
自宅を塾に使うと住宅ローン控除に影響しますか。
影響する可能性があります。国税庁のタックスアンサー No.1211-1(令和4年以降に居住の用に供した新築等の場合)では、適用要件に「床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること」が含まれています。居住した年や住宅の種類によって参照すべき要件は分かれます。自宅の一部を塾に転用すると、居住用部分の割合がこの要件を下回る場合があります。控除を受けている、または受ける予定がある場合は、転用の前に税務署または税理士へ確認してください。
自宅塾は何人集まれば黒字になりますか。
固定費を生徒1人あたりの限界利益で割った人数です。当社のモデルケースでは、自宅型の月次固定費を180,000円、1人あたりの月間限界利益を17,500円(実効単価25,000円×変動費率30%を差し引いた額)として、損益分岐は11人になります。小型テナント型の32人と比べてかなり低い水準です。自分の固定費と単価を入れて計算し直してください。
自宅であることは生徒集めで不利になりますか。
不利になる場合と、むしろ有利になる場合があります。保護者にとって自宅は「実態がわかりにくい」不安材料になり得る一方、少人数で目が届くこと、講師が変わらないことは大手にない価値です。不利を打ち消すには、指導内容と実績、面談の場所、連絡手段を明示することが有効です。自宅であること自体を隠すと、かえって不信につながります。

本ページで参照した法令・統計

  • 建築基準法 別表第二(用途地域等内の建築物の制限・第27条、第48条、第68条の3関係)(e-Gov法令検索(昭和25年法律第201号))
  • 建築基準法施行令 第130条の3(第一種低層住居専用地域内に建築することができる兼用住宅)(e-Gov法令検索(昭和25年法律第201号))
  • 国税庁 タックスアンサー No.1211-1「住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」(令和7年4月1日現在法令等)
  • 文部科学省「子供の学習費調査」(平成28年度)(統計表ID 小学校 0003368820 / 中学校 0003368821)
  • 受講生1人あたり実効単価の算出には、総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」産業別集計を使用

本ページの損益分岐と撤退時の金額は、当社が置いた前提にもとづくモデルケースです。実際の数値は物件・立地・指導形態によって変わります。法令の適用範囲、契約の解釈、税務の取り扱いについては、それぞれ自治体の担当課、弁護士、税務署または税理士にご確認ください。本ページは条文と要件の所在を示すもので、個別の可否を判断するものではありません。