OPENING
塾を開業するには|手順・資格・届出と、その商圏で成立するかの確かめ方
塾の開業に国家資格は要りません。ただ、資格が要らないことと、開いた塾に生徒が集まることは別の問題です。手続きよりも、その場所に何人いるかのほうが難しい判断です。
通学圏の児童生徒数から集められる人数を見積もり、その人数で黒字になるかを確かめる順に書いています。届出と手続きの期限も並べました。物件を契約する前に読んでください。
SHORT ANSWER
結論から。 塾の開業に国家資格は不要で、営業許可も原則として要りません。まず押さえるべきは税務署への開業届と、物件の用途地域・消防に関する事前確認です(講師を雇う場合や法人で始める場合は、これに加えて必要な届出があります)。手続き自体は難しくありません。難しいのはその先です。 固定費を決めた時点で、黒字化に必要な在籍数はほぼ決まります。 その人数に商圏から届くかどうかを、契約前に確かめてください。
確かめ方は第5章と第6章で扱います。開業後の経営指標については塾経営のページで詳しく扱っています。
1. 塾の開業で、手続きより先に決める3つの数字
開業準備は、やることが多いぶん順序を誤りやすい工程です。物件を見に行く前に、次の3つを数字にしておきます。
- 商圏から獲得できる生徒数。その場所に対象年齢の子どもが何人いて、そのうち何割が塾に通い、自塾がどれだけ取れるか。
- 黒字化に必要な在籍数。固定費を1人あたりの限界利益で割った数。ここに届かなければ赤字が続きます。
- その人数に到達するまでの月数。生徒は一度に集まりません。到達までの期間、固定費を払い続ける資金が要ります。
1が2を下回る場合、その商圏とその固定費の組み合わせでは黒字化が難しいことになります。物件を決めてからこれに気づくと、家賃の再交渉や規模の見直しといった限られた選択肢しか残りません。この順序を逆にすると、決め直しになります。
2. 塾開業に資格は要らない。要るのは別の確認
学習塾の開業に必要な国家資格はありません。教員免許も、塾講師の経験も、法律上の要件ではありません。営業許可も原則として不要です。ここは他の記事にも書かれているとおりです。
個人事業として始める場合、税務署へ個人事業の開業・廃業等届出書を提出します。青色申告を選ぶなら、青色申告承認申請書もあわせて出します。法人として設立する場合は、設立登記の手続きが別途必要です。
確認が要るのは、物件と子どもの安全に関わる部分
営業の許可は不要でも、次の2つは物件を契約する前に確認しておく必要があります。詳しくは第7章で扱います。
- 建築基準法上の用途地域。その地域でその用途の建物が使えるかどうか。自治体の担当窓口で確認します。
- 消防法上の取り扱い。建物や規模によって必要な設備と届出が変わります。所轄の消防署で確認します。
こども性暴力防止法(日本版DBS)の動きにご注意ください
こども性暴力防止法(正式名称は「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」)が、2026年12月25日に施行されます。2024年6月19日に成立し、同月26日に公布された法律です。
学校や認可保育所は対象が義務づけられる一方、学習塾は国の認定を受けることで制度の対象となる仕組みです。認定の申請は施行日から可能とされています。認定を受けた事業者は、従事者の特定性犯罪の前科等を確認する仕組みを利用できます。
認定は義務ではありませんが、保護者に対して安全管理の体制を示す材料になります。これから開業する場合、認定を取るかどうかは講師の採用手順にも関わるため、開業準備の段階で方針を決めておくとよいでしょう。認定の要件や手続きの詳細はこども家庭庁が公表しているガイドラインをご確認ください。
3. 開業手続きは「いつ・どこへ」で整理する
手続きは、時期と提出先で並べたほうが漏れません。個人事業として開業する場合を基本に整理します。
物件を契約する前に
- 用途地域の確認(自治体の建築指導の窓口)。その地域でその用途の建物が使えるか
- 消防に関する確認(所轄の消防署)。想定する収容人数・階数・時間帯を伝えて、必要な設備と届出を確認する
開業したら
- 個人事業の開廃業等届出書(税務署)。提出期限は、事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までとされています
- 所得税の青色申告承認申請書(税務署)。原則としてその年の3月15日まで、1月16日以後に新たに事業を開始した場合は事業開始等の日から2か月以内です。開業届と同時に出しておくと出し忘れを防げます
- 事業開始等申告書(都道府県税事務所など)。名称や期限は自治体によって異なります
講師を雇うなら
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(税務署)。給与を支払う事務所を開設した場合。その事実があった日から1か月以内です
- 源泉所得税に関する手続き(税務署)。納期の特例を使うかどうかも含めて確認します
- 労働保険・社会保険の手続き(労働基準監督署・ハローワーク・年金事務所)。雇用形態と人数によって必要な範囲が変わります
法人で始めるなら
設立登記(法務局)に加えて、法人設立届出書を税務署・都道府県・市区町村へ提出します。個人事業より手続きも費用も増えるため、初年度から法人にするかどうかは、想定売上と資金調達の方法から判断してください。
提出先・期限・様式は制度改正や自治体によって変わります。実際の手続きにあたっては、国税庁および所在地の自治体の最新の案内をご確認ください。判断に迷う場合は税理士など専門家にご相談ください。
4. 自宅とテナントで、開業費用は8倍ひらく
初期費用は「合計いくら」で語られがちですが、判断が要るのは内訳のほうです。どの費目が支配的かは開業形態によって変わります。
- 物件取得費
- 内装工事
- 什器備品
- 教材・システム
- 募集広告
金額は当社が置いたモデルであり、統計値ではありません。物件取得費は保証金・礼金・仲介手数料の合計を想定しています。 フランチャイズに加盟する場合は、これに加盟金・研修費・保証金が上乗せされ、本部によって金額が大きく異なります。 この図に運転資金は含まれていません。在籍が必要数に届くまでの固定費を別途確保してください。
自宅型と標準テナント型で総額が8倍違いますが、差の大半は物件取得費と内装工事です。教材・学習システムと募集広告は、形態によらず一定額が必要になります。
つまり初期費用を下げたいなら、削るべきは物件の条件です。教材や募集広告を削ると、開校後に生徒が集まらず、結局その分の固定費を長く払うことになります。
この図に運転資金は含まれていません
初期費用とは別に、在籍が必要数に届くまでの固定費を払い続ける資金が要ります。ここを初期費用だけで見積もると、開校後に資金が足りなくなります。必要額の考え方は第10章で扱います。運転資金を含めた総額と、自己資金・借入の目安は開業資金シミュレーターで試算できます。
5. その商圏で何人集められるかは、先に計算できる
「立地が大事」という指摘はよく目にしますが、物件を比べるための基準がないと判断できません。塾の場合、獲得できる生徒数の上限は次の式で概算できます。
獲得可能生徒数 = 商圏の学齢人口 × 通塾率 × 自塾のシェア
この式は開業前の可否判断に使います。すでに運営している塾が、いまの在籍を商圏の上限と照らして確かめる用途については、塾経営のページで扱っています。
商圏の学齢人口は、自治体が公表する年齢別人口や、通える距離にある小中学校の児童生徒数から把握できます。問題は通塾率です。ここを感覚で置くと、見積もり全体が狂います。
文部科学省の調査には、学習塾費を支出した世帯の割合が、所在市町村の人口規模別に集計されています。これが通塾率の実測値として使えます。
開業前に確かめる式
獲得可能生徒数 = 商圏の学齢人口 × 通塾率 × 自塾のシェア
出典: 文部科学省「子供の学習費調査」(平成28年度)。公立校に通う子供の保護者のうち、学習塾費を支出した者の割合。学習塾費には塾以外の学習支援費が含まれる場合がある。 なお、より新しい年度の調査も実施されていますが、所在市町村の人口規模別の内訳を持つのは本表です。現在の水準そのものではなく、商圏規模によって通塾率がどれだけ変わるかの構造としてご覧ください。
中学生では、人口5万人未満の市町村が52.8%であるのに対し、指定都市・特別区は79.4%です。 同じ人数の子どもがいても、塾に通う割合そのものが1.5倍違います。 小学生ではこの差がさらに大きく、22%と52.5%で2倍を超えます。
この差が意味するのは、地方の商圏では小学生を主対象にした設計が成立しにくい場合がある、ということです。対象学年の選び方が、商圏の規模によって変わります。
自塾のシェアは、商圏内の競合数から置きます。競合が多い商圏ではシェアの想定を下げる必要がありますが、競合が1つもない商圏は、そもそも需要が無い可能性も疑ったほうが安全です。
商圏を実際に調べる手順
机上で完結させず、次の順で確かめます。数字と現地の両方を見ないと、通える距離の実感がつかめません。
- 通える範囲を地図で引く 小学生なら徒歩か保護者の送迎、中学生なら自転車が中心になります。自転車で15分程度、徒歩なら10分程度を目安に、実際の道路と踏切や大通りを見ながら範囲を決めます。地図上の円ではなく、通行できる経路で考えてください。
- 範囲内の学校と児童生徒数を数える 小中学校の児童生徒数は、自治体や学校が公表しています。学年ごとの人数まで分かれば、対象学年の母数が出ます。
- 通塾率を掛ける 上の図の値を、自分の商圏の人口規模に合わせて使います。市の人口ではなく、その市がどの区分に当たるかで見ます。
- 競合を数える 範囲内にある塾を、地図と検索の両方で洗い出します。大手か個人か、指導方式は何か、対象学年はどこかまで見ると、自塾が取りにいく層が具体的になります。
- 現地を時間帯を変えて歩く 平日の夕方に、子どもがどの経路で動いているかを見ます。駅前でも、子どもの通り道から外れていれば意味がありません。
よくある見積もりの誤り
市全体の人口で商圏を語ってしまうケースが多くあります。人口20万人の市でも、実際に通える範囲に住む対象学年の子どもは数百人ということは珍しくありません。母数は必ず「通える範囲の、対象学年の人数」で置いてください。ここを大きく見積もると、以降の計算がすべて楽観に振れます。
6. 固定費を決めた時点で、必要な在籍数は決まる
第5章で獲得可能生徒数の上限が出たら、次はその人数で黒字になるかを確かめます。黒字化に必要な在籍数は、月次固定費を生徒1人あたりの限界利益で割った数です。
限界利益とは、生徒1人あたりの実効単価から変動費を引いた額です。実効単価は月謝だけでなく、季節講習と教材費を含みます。政府統計から受講生1人あたりの年間売上を割り戻すと39,585円になり、月謝の水準を上回ります。月謝だけで見積もると、売上を小さく置いてしまいます。
当社のモデルケースでは、この計算の結果は開業形態によって大きく変わります。自宅型なら11人、小型テナント型で32人、標準的なテナントを借りると55人です。 同じ塾でも、固定費の水準で必要な在籍数が5倍近く変わります。
ここで見るべきは、第5章で出した獲得可能生徒数がこの人数を上回っているかの1点です。上回っていなければ、物件の条件を変えて固定費を下げるか、対象学年や指導方式を変えて単価を上げるかで前提を組み直します。
自分の固定費と単価で損益分岐生徒数を出したい場合は、収支シミュレーターに入力してください。なお、損益分岐を超えることと、生活できる利益が出ることは別です。必要な生活費から逆算すると目標在籍数はさらに上がります。開業形態ごとの損益カーブと、必要な年収から逆算した在籍数は塾経営のページで図にして扱っていますので、数字を詰める段階で参照してください。
7. 用途地域と消防の確認を、契約の後に回さない
商圏と必要在籍数が決まってから物件を探します。塾の物件選びには、飲食や物販とは違う確認事項があります。
法令面(契約前に確認する)
- 用途地域 建築基準法では地域ごとに建てられる建物の用途が定められています。学習塾がその地域で使える用途に当たるかを、自治体の建築指導の窓口で確認します。住居専用地域では規模や条件に制限がかかる場合があります。
- 消防法上の取り扱い 建物の用途区分によって、必要な消防設備や届出が変わります。所轄の消防署に、想定する使い方(収容人数、階数、時間帯)を伝えて確認してください。既存の建物でも、用途が変わることで新たな設備が必要になる場合があります。
この2つは、契約後に判明すると対応が難しくなります。仲介業者の説明だけで判断せず、自分で窓口に確認することをおすすめします。競合の記事でこの点に触れているものは多くありませんが、実務では最初に潰すべき項目です。
運営面
- 通塾の安全性。夜間の人通り、駅やバス停からの経路、街灯の有無。保護者が最も気にする点です
- 送迎の可否。車で送る保護者が一時停車できる場所があるか
- 自転車置き場。台数分の駐輪スペースを確保できるか
- 音の問題。上下階や隣室への配慮が必要か、逆に外部の音が授業に影響しないか
- 視認性。看板を出せるか、通りから存在が分かるか
8. 自宅の一室なら、固定費は最小で済む
固定費を最小にする方法として、自宅の一室を使う形があります。第6章のとおり、自宅型の損益分岐生徒数は11人で、テナント型と比べてかなり低く抑えられます。開業資金も小さく、続けられなかったときに出ていく現金も小さく抑えられます。
少人数でも成立するため、対象を絞った塾には向いた形です。一方で、確認と設計が必要な点があります。
確認すること
- 賃貸の場合は、契約上その用途で使えるか。住居専用の契約では認められない場合があります
- 持ち家でも、用途地域によって制限がかかる場合があります
- 集合住宅では管理規約の確認が必要です
設計で考えること
- 生活空間と学習空間の分離。生徒や保護者が家族の生活空間を通らない動線をつくれるか
- 保護者の来訪。面談をどこで行うか
- 近隣への配慮。送迎の車や自転車、生徒の声が近隣にどう影響するか
- 信頼の設計。自宅であること自体が不安材料になる保護者もいるため、指導内容と実績の伝え方が通常以上に重要になります
自宅型は「小さく始めて様子を見る」ための選択肢としても有効です。ただし在籍が増えたときに手狭になるため、何人まで受け入れるか、その先どうするかを先に決めておくと迷いません。
用途地域の条文、賃貸契約での可否、住宅ローン控除への影響、自宅型の損益分岐生徒数は、自宅で個人塾を開業するページで詳しく扱っています。
9. 開校の時期は、募集期から逆算する
塾には募集が集中する時期があります。新年度と、季節講習の前です。この時期を外して開校すると、次の募集期まで在籍が積み上がりません。準備期間から逆算して開校月を決めてください。
各工程の所要期間は当社が置いたモデルであり、統計値ではありません。物件の見つかり方、融資審査、講師の採用状況によって前後します。
通算で約10か月かかるため、4月開校を目指すなら6月ごろの着手が目安になります。ここで重要なのは、開校が遅れたときに失うのは遅れた月数ではなく、次の募集期までの期間だということです。1か月の遅れが、実質的に半年の遅れになることがあります。
運転資金は、この待ち時間も含めて確保します。開校後すぐに在籍が埋まる前提の計画は、資金繰りが悪化しやすくなります。
10. 運転資金は何か月分を見込むか
開業資金の話は「初期費用がいくらか」に集まりがちですが、実際に資金が尽きるのは開校後です。生徒は一度に集まらないため、必要な在籍数に届くまでのあいだ、固定費を払い続ける期間があります。
必要な運転資金は、次の考え方で概算できます。
必要運転資金 = 月次固定費 × 損益分岐生徒数に到達するまでの月数
到達までの月数は、募集の実力によります。開校前の募集で何人集まり、その後に毎月何人ずつ増えるか。ここを楽観的に置くと、そのまま資金不足になります。
第9章で触れたとおり、開校が募集期を外れると、次の募集期まで在籍がほとんど動きません。最悪の場合として、次の募集期までの期間を織り込んだ月数で計算しておくと、資金計画が現実的になります。
季節による資金の山谷も先に見ておく
塾の売上は年間で一定ではありません。夏期講習と冬期講習の時期に増え、その前後で落ち込みます。年間では黒字でも、特定の月だけ資金が足りなくなることがあります。
さらに、講習費を事前に受け取る場合、手元の現金は先に増えますが、講習を実施する期間には講師のコマ給と教材費が発生します。前受金を受け取った時点の残高を、そのまま使える利益と見てしまうと、実施期に資金が不足しかねません。
月次の資金繰り表を作り、最も苦しい月の残高を基準に運転資金を確保しておくと、不足の兆候を早い段階で把握しやすくなります。開業前の計画段階から、12か月分の月次で組んでおくことをおすすめします。
11. 対象学年と指導方式を、商圏のデータから選ぶ
何を教えるかは好みで決めがちですが、商圏の条件によって成立しやすさが変わります。第5章のデータがここで効いてきます。
対象学年
通塾率は学年によって大きく違います。中学生は全国平均で68.9%、小学生は37.8%です。 しかも小学生の通塾率は商圏規模による差が大きく、人口5万人未満では22%まで下がります。 地方の商圏で小学生を主対象にすると、母数が想定より小さくなります。
一方、高校生まで受け入れる場合は単価が上がる代わりに、指導できる科目の範囲が広がり、講師の確保が難しくなります。どこまで受けるかは、自分と講師の指導可能範囲から決めてください。
指導方式
個別指導は時間単価が高く、少人数でも成立しやすい一方、生徒が増えるほど講師が必要になります。集団指導は1人の講師で多くの生徒を見られますが、一定の人数が集まらないと成立せず、教室も広さが要ります。
自立学習型は、講師が教えず学習管理に徹する形です。講師人件費を抑えられるため損益分岐生徒数が下がり、小さく始めたい場合に向きます。教材や学習システムの費用が固定費に乗る点に注意してください。
オンラインは教室が不要なため初期投資が最も小さく、商圏の制約もありません。ただし商圏という参入障壁が無いということは、競合も全国になるという意味です。何で選ばれるかを、開業前に言葉にできている必要があります。
ここから先は、業態ごとのページとデータで確かめる
- 業態別のページ
方式ごとに1講座あたり何人入るか、同じ在籍数で開く講座がいくつ必要かを政府統計から出しています。単価の高さがどこで相殺されるかは、ここで確かめてください。 - 個別指導塾の収益構造
いちばん事業所数が多い方式です。開業資金と、目標在籍数からコマ数・席数・坪数を出す手順まで扱っています。 - 商圏人口規模別の通塾率(一次データ)
ここに出した68.9%・37.8%という数字の原表です。自分の市町村がどの区分かを確かめられます。 - 指導方式別の講座数・在籍者数・開設時間(一次データ)
集団と個別で構造がどう違うかの元になっている数字です。
12. 講師の採用と教材の準備
個別指導では、生徒が増えれば必要なコマ数が増え、コマ数が増えれば講師が必要になります。開校時点で何人必要かは、想定する在籍数と指導形態から逆算します。1対1と1対3では、同じ生徒数に必要な講師数が変わります。
採用が難しい商圏では、時給を上げて確保することになり、売上に対する人件費の比率が上がります。この比率は開業後の利益を左右する指標なので、商圏を選ぶ段階で、学生アルバイトを確保できる環境か(大学が近いか、通いやすいか)も見ておくと後が楽になります。
講師を雇わずに始める形もあります。自立学習型やオンラインは、講師人件費を抑えられる代わりに、教材と学習管理の仕組みに投資が必要です。どちらが向くかは、集めたい生徒層と自分が現場に立てる時間で決まります。
教材は、自作するか、外部の教材や学習システムを導入するかを選びます。外部を使う場合は月額費用が固定費に乗るため、第6章の損益分岐生徒数の計算に含めてください。
管理システムは、開校時に要るとは限らない
入退室の記録、請求と集金、成績や指導報告の管理を、何で回すかを決めます。開校時から専用のシステムが要るかどうかは、在籍数と、自分がどこまで手で回せるかで変わります。
判断の順序は、機能から入らないことです。先に、いま何に時間を取られているかを数えます。集金の消込に月何時間かかっているか、保護者への連絡を何件手打ちしているか。そこが小さいうちは、表計算と口座振替の代行で足りることがあります。月額が固定費に乗ると、その分だけ損益分岐生徒数が上がります。
入れるかどうかの判断と、入れる場合に何を見るかは塾管理システムのページで扱っています。入退室の管理だけを先に始める場合は入退室管理のページにあります。
13. 開校日に何人いるかは、その前の3か月でつくる
開校してから募集を始めると、家賃と人件費が発生している状態で生徒ゼロの期間を過ごすことになります。募集は開校の2か月から3か月前に始めます。
開校前の塾には実績がありません。そのため、実績の代わりになるものを用意する必要があります。指導方針が具体的であること、誰が教えるのかが分かること、体験授業で中身を確かめられること。この3つが、実績のない段階で保護者が判断できる材料です。
開校前にやること
- 体験授業と説明会の設計。日程を先に決めて告知に載せます
- 問い合わせの受け皿。電話だけでなく、保護者が夜でも送れる手段を用意します
- 商圏内への告知。チラシの配布範囲は、第5章で設定した商圏と一致させます
- 検索で見つかる状態。塾名と地域名で検索されたときに情報が出てくるようにします
なお、入った生徒が続かなければ、募集をいくら強化しても在籍は増えません。開業後は募集数と同じくらい、退塾の状況を見る必要があります。この点は塾経営のページで数式にして扱っています。
14. 塾開業で失敗する、5つのパターン
いずれも、開業前に確かめておけば避けられるものです。
- 商圏の見積もりをせずに物件を決めた 固定費が先に確定し、必要な在籍数が商圏の上限を超えていることに後から気づくパターンです。代表的な失敗の形で、後からの修正が最も難しくなります。
- 用途地域や消防の確認を契約後に行った 使えない物件、あるいは想定外の設備投資が必要な物件を借りてしまいます。契約前に窓口で確認すれば防げます。
- 募集期を外して開校した 次の募集期まで在籍が積み上がらず、その間の固定費で資金が尽きます。逆算して開校月を決めていれば避けられます。
- 月謝だけで売上を見積もった 季節講習と教材費を計画に入れていないため、実際の売上構造とずれます。逆に、講習の設計が弱い塾は本当に売上が伸びません。
- 運転資金を開校までの分しか用意しなかった 在籍が必要数に届くまでの期間、固定費を払い続ける資金が要ります。ここを短く見積もると、黒字化の直前で資金が尽きます。
15. よくあるご質問
- 塾の開業に資格は必要ですか。
- 学習塾の開業そのものに必要な国家資格はありません。教員免許も不要です。個人事業として始める場合は、税務署へ個人事業の開廃業等届出書を提出します。提出期限は、事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までとされています。ただし資格が不要であることと、生徒が集まることは別の問題です。資格の有無より、その商圏で何人集められるかを先に確かめることをおすすめします。
- 塾を開業するのに届出や許可は要りますか。
- 学習塾の営業そのものに許認可は原則として不要です。ただし物件については、建築基準法上の用途地域で学習塾に相当する用途が使えるか、消防法上どの区分に当たり何の設備や届出が必要かを、契約前に自治体と消防署へ確認する必要があります。ここを確認せずに契約すると、使えない物件を借りてしまう可能性があります。
- 自宅で塾を開業できますか。
- 設備上は可能で、固定費を最小にできる方法です。当社のモデルケースでは、自宅型の損益分岐生徒数は11人と、テナント型に比べてかなり低くなります。ただし住居として借りている物件は用途が制限されている場合があり、賃貸なら契約内容、持ち家でも用途地域の確認が必要です。生活空間と学習空間の分離、保護者の来訪動線、近隣への配慮も設計に含めてください。
- 塾の開業準備はどれくらいの期間がかかりますか。
- 当社のモデルケースでは、コンセプト設計から開校まで通算で約10か月です。塾の入塾は新年度と季節講習の前に集中するため、4月開校に間に合わせるには逆算しておよそ6月ごろの着手が目安になります。この時期を外して開校すると、次の募集期まで在籍が積み上がりません。
- 塾の開業で最も多い失敗は何ですか。
- 商圏で獲得できる生徒数の見積もりを立てないまま、固定費の水準を先に決めてしまうことです。家賃を含む固定費を決めた時点で、黒字化に必要な在籍数はほぼ決まります。その人数が、商圏の学齢人口と通塾率から見て現実的に届く範囲かどうかを、物件契約の前に確認してください。
- 塾の開業に必要なものは何ですか。
- 物件、机と椅子、ホワイトボード、教材と学習システム、生徒管理の仕組み、募集用の告知手段が基本です。ただし設備を揃えることは開業準備の一部でしかありません。先に決めるべきは、対象学年と指導方式、商圏、そして必要な在籍数です。設備はその結論から逆算して選びます。
本ページで使用した統計
- 文部科学省「子供の学習費調査」(平成28年度)。所在市町村の人口規模別の学習費支出状況。統計表ID 0003368820(小学校)、0003368821(中学校)
- 総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」産業別集計。受講生1人あたりの年間売上の算出に使用。統計表ID 0004003273
- 国税庁「新たに事業を始めたときの届出など」(タックスアンサー No.2090)。各届出書の提出期限
- こども家庭庁「こども性暴力防止法」。成立日・公布日・施行日および認定制度の対象
統計として引用している数値は、e-Stat の API から当社が取得した実データです。損益分岐生徒数および開業準備の所要期間は、当社が置いた前提にもとづくモデルケースであり、統計値ではありません。収益や開業の成功を保証するものでもありません。実際の判断にあたっては、ご自身の条件に置き換えてご確認ください。用途地域・消防・こども性暴力防止法に関する取り扱いは、必ず所管の窓口および最新の公表内容をご確認ください。