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塾を畳むか譲るか|判断の期限と、閉じるときにかかる実費

続けるか、畳むか、譲るか。この3つを同時に考え始めるのは、たいてい資金繰りが苦しくなってからです。

手元資金が残っているうちは、閉校日を選べます。尽きると、選べるのは支払いの順番だけになります。畳むにも譲るにも、お金と時間がかかるからです。現金が尽きてから動くと、原状回復の費用も講師への予告手当も払えません。

手元の現金、毎月の赤字、賃貸借契約の解約予告期間。この3つを入れて、いつまでに決めなければならないかを出します。譲る場合も閉じる場合も、先に、閉じるまでに出ていく金額を置きます。そこから、何月までに決めるかを出します。

当社は、教室の譲渡や事業譲渡のご相談もお受けしており、成立した場合に対価を受け取る可能性があります。本ページの計算は、譲るか閉じるかのどちらを選んでも同じ手順で出せるようにしています。条件が合わない場合は見送りをお勧めします。

夕方の教室。机と椅子が片付けられ、床に段ボール箱が置かれている
※写真はイメージです。特定の教室や事例を示すものではありません。

SHORT ANSWER

判断の期限は、手元の現金がゼロになる月ではありません。畳むには時間がかかるので、その期間を引いた地点が期限になります。

2024年に市場から退出した学習塾248社のうち、倒産は53社でした。残り195社は休廃業・解散、つまり自分で畳んだ塾です。市場から出た塾の78.6%は、倒産ではなく自分で畳んでいます。

期限の出し方は第4章、閉じるときの実費は第5章、譲渡価格の考え方は第7章で扱います。 続けるための打ち手は塾経営のページに、買う側の判断は法人・多店舗のページにあります。 本サイトは判断材料を示すもので、畳むこと自体を勧めるものではありません。

1. 畳んだ塾のほうが、倒産した塾より多い

学習塾の倒産は毎年ニュースになります。ただ、倒産は市場から消える塾の一部でしかありません。

東京商工リサーチ「学習塾396社 業績動向調査」によると、2024年の倒産は53社、休廃業・解散は195社でした。合わせて248社が市場から退出しています。倒産は支払いが行き詰まって終わったもので、破産や民事再生のほか、銀行取引停止や内整理も含みます。休廃業・解散は、経営者が自分で終わりを決めて手続きを踏んだものです。

2024年に市場から退出した学習塾 248社 の内訳 ニュースになるのは左側の倒産だけです 倒産 53社 休廃業・解散 195社(78.6%) 退出した塾の 78.6% は、倒産ではなく自分で畳んだ塾です 休廃業・解散は倒産の 3.7倍。畳み方を決めた人のほうが、はるかに多いことになります それでも、閉じるときにいくら出ていくかは表に出にくい数字です

読み方 倒産は支払いが行き詰まって終わったもので、破産や民事再生のほか、銀行取引停止や内整理も含みます。休廃業・解散は、経営者が自分で終わりを決めて手続きを踏んだものです。2024年は前者が53社、後者が195社でした。倒産の記事を読んでも、退出した塾の78.6%がどう畳んだのかは分かりません。

出典: 東京商工リサーチ「学習塾396社 業績動向調査」(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200880_1527.html)。2026年8月8日に当社が取得しました。割合と倍率は当社で算出しています。 東京商工リサーチの集計であり、全国のすべての学習塾を数えた悉皆調査ではありません。事業所数に対する比率は、分母の定義が揃わないため出していません。

休廃業・解散は倒産の3.7倍あります。畳むと決めた塾のほうが、圧倒的に多数です。

それにもかかわらず、目に入るのは倒産の記事のほうです。畳むときに何をいくらで処理するのかは、あまり書かれていません。

この違いが意味すること

倒産は、資金が尽きて選べなくなった状態です。休廃業・解散のなかには、まだ現金が残っているうちに決めたものも含まれます。ただし195社のうち何社がそうだったかは、この集計からは分かりません。分かるのは、現金が残っているうちなら選べる手段があるということです。第4章でその期限の出し方を扱います。

2. 事業所の数は、5年で減っていない

学習塾の廃業を扱う記事には、決まって出てくる数字があります。3年で50%、5年で70%、10年で85%が廃業する、というものです。

業界全体で本当に減っているなら、事業所数にも表れるはずです。総務省・経済産業省「経済センサス‐活動調査」産業別集計(学習塾/民営事業所数)で、同じ定義の数字を5年あけて比べました。

調査年 学習塾の民営事業所数
2016年(平成28年) 18,285
2021年(令和3年) 18,850
+565(+3.1%)

5年で565事業所ふえています。5年で7割が廃業するのが業界全体の姿なら、消えた数を上回る新規開業が5年間続いていたことになります。子どもの数が減っている業界で、この説明には無理があります。

事業所数から言える範囲

事業所数は「その時点で営業している数」なので、廃業と新規開業の差し引きです。個々の塾の生存率そのものではありません。学習塾だけを取り出した生存率の公的統計を、当社は見つけられていません。

つまり「業界全体としては減っていない」までが言えることで、「あなたの塾が続く」という話ではありません。自塾を見るなら、出回っている廃業率よりも、手元資金と在籍数を先に見ます。その手順を第4章と第5章に置いています。

3. 赤字の塾は3割を超えた

東京商工リサーチ「学習塾396社 業績動向調査」(2023年度・2023年4月期〜2024年3月期決算)は、5期連続で売上高と利益が判明した396社を対象に業績を集計しています。

2023年度の最終損益は、黒字が270社、赤字が126社で31.8%でした。前々期の赤字は103社(26%)だったので、5.8ポイント上がっています。

項目 2023年度
対象社数396社
売上高5,431億円
最終利益297億円
赤字の社数126社(31.8%)
売上高5億円未満319社(80.6%)
売上高100億円以上19社(売上シェア66.2%)

19社が売上の66.2%を持つ一方、80.6%は売上高5億円未満です。同じ「学習塾」でも、大手と小規模では損益の作り方がまったく違います。

業界の外と比べると、赤字は多くない

3割が赤字と聞くと多く感じますが、全法人の赤字割合と並べると、見え方が変わります。国税庁「令和5年度分 会社標本調査結果について」によると、全法人2,956,717社のうち赤字(欠損法人)は1,803,203社で61%です。日本の会社は6割が赤字という状態が続いています。

対象 赤字の割合
学習塾396社(2023年度・東京商工リサーチ) 31.8%
全法人2,956,717社(令和5年度分・国税庁) 61%

この2つは、そのまま比べられません

母集団が違います。会社標本調査の対象は業種を問わない内国普通法人で、休業中・清算中の法人は除かれています。学習塾だけを取り出した数字ではありません。一方の396社は5期連続で売上高と利益が判明した396社の集計で、個人経営の小規模塾の多くは含まれない。業界全体の平均ではない。

ただし、この数字だけで「学習塾は赤字が多い業界」とは言えません。学習塾が特別に赤字の多い業界だという言い方は、この数字からは出てきません。効いてくるのは水準そのものではなく、5.8ポイント上がったという変化のほうです。

5期連続で売上高と利益が判明した396社の集計で、個人経営の小規模塾の多くは含まれない。業界全体の平均ではない。自塾がこの396社に入っていない可能性のほうが高いという前提で読んでください。方向の目安として使う数字です。

4. 判断の期限は、現金がゼロになる前に来る

撤退の判断は「赤字が続いたら」「限界を感じたら」と語られがちですが、それだと期限が出てきません。期限を出すには、残っている資金を月次の赤字で割ります。

畳むには時間がかかります。保護者への告知から最終授業まで、賃貸借契約の解約予告、原状回復と明け渡し。この期間中も家賃と人件費は出ていきます。

判断の期限は、現金が尽きる月ではありません(モデル) 手元 3,000,000円/毎月 300,000円の赤字/畳むのに 4か月 と置いた場合 現金 0 判断の期限(6か月後) 現金ゼロ(10か月後) 畳むのに要る 4か月 0か月3か月6か月9か月 現金がゼロになってから動くと、原状回復も解雇予告手当も払えません 判断の期限 = 手元現金 ÷ 毎月の赤字額 − 畳むのに要る月数 3つの数字を自塾のものに入れ替えれば、いつまでに決めるかが出ます

読み方 畳むという判断には、実行までの時間がかかります。保護者への告知から最終授業まで、賃貸借契約の解約予告、原状回復と明け渡し。この例では4か月を見ています。 手元3,000,000円で毎月300,000円ずつ減るなら現金が尽きるのは10か月後ですが、決めるべき期限はその4か月前、つまり6か月後です。ここを過ぎると、続けるか畳むかではなく、畳む費用をどう工面するかという問題に変わります。

モデルケース: 手元現金・毎月の赤字額・解約予告期間はいずれも塾ごとに違います。自塾の契約書と通帳の数字に置き換えてください。この図は期限の求め方を示すもので、金額そのものを推奨するものではありません。 解約予告期間は賃貸借契約書に書かれています。損益分岐生徒数の出し方は塾経営のページで扱っています。

自塾の数字で出す手順

  1. 手元の現金を確認する。
    事業用口座の残高から、来月出ていくことが確定している支払いを引きます。
  2. 毎月いくら減っているかを出す。
    直近3か月の残高の変化を並べます。季節講習の入金月があるなら、その分をならして見ます。
  3. 畳むのに要る月数を数える。
    賃貸借契約書の解約予告期間を確認します。告知から最終授業までの期間と並行できるので、長いほうに明け渡しの期間を足します。
  4. 1を2で割り、3を引く。
    残った月数が、判断の期限です。ゼロを下回っていれば、期限は既に過ぎています。

期限を過ぎるとどうなるか

続けるか畳むかではなく、畳む費用をどう工面するかという話になります。原状回復も解雇予告手当も、払う原資が要ります。第1章で見た倒産53社と休廃業・解散195社の内訳から、どちらが期限の内側で動けたかまでは分かりません。分かるのは、自分で終わりを決めて手続きを踏んだ塾のほうが多い、というところまでです。

損益分岐生徒数の出し方は塾経営のページで扱っています。あと何人で黒字に戻るかと、あと何か月で現金が尽きるかは別の計算です。両方を並べてから決めてください。

5. 閉じるときに出ていく実費を先に並べる

閉校を決めたあとにも、支払いは残ります。畳む過程で新しく発生する支出があります。金額は契約書に書いてあるので、決める前に、契約書そのものを開いてください。

出ていくもの どこを見れば分かるか
原状回復工事 賃貸借契約書の原状回復条項。どの状態まで戻すかで金額が変わります。指定業者の定めがあると相見積もりを取れません
解約予告期間の家賃 同じく賃貸借契約書。予告が6か月なら、生徒がいなくなっても6か月分の家賃が出ていきます
リース残債 複合機、タブレット、机や椅子のリース契約書。中途解約時の残債と違約金の定めを確認します
解雇予告手当 30日前に予告できない場合に発生します。第9章で扱います
前受金の返金 季節講習費や教材費で、提供していない分。第8章で扱います
システムの解約 塾管理システムや通信回線の最低利用期間。年契約なら残期間の扱いを確認します
什器・教材の処分 産業廃棄物として処理費用が発生します。売れるものは売れますが、値が付かない前提で見ておくほうが安全です

金額は教室の広さと契約内容で大きく変わるため、本サイトでは相場を示しません。上の7項目それぞれについて、契約書のページ番号と金額を書き出した表を1枚作ってください。この合計を用意できないと、手続きの途中で資金が詰まります。第4章の期限は、この金額を用意できるうちに動くための期限でもあります。

6. 閉じるか譲るかで、手残りが逆転することがある

教室ごと引き継ぐ相手が見つかれば、第5章の支出のうち原状回復と什器処分は発生しません。リース契約も引き継げる場合があります。

このため、譲渡代金がゼロでも閉じるより有利になることがあります。ただしこの説明は、譲渡価格をゼロに寄せる方向にも働きます。比較の順序を決めておいてください。

閉じる場合 譲る場合 原状回復工事 什器・教材の処分 解約予告期間の家賃・リース残債 解雇予告手当・前受金の返金 この2つが浮く =譲ることで消える支出 物件を引き継がないなら残る 講師と生徒を引き継がないなら残る 譲渡代金の下限=相手を探す期間の家賃と人件費 − 浮いた分 浮いた分のほうが大きければ下限はマイナス。代金ゼロでも譲るほうが手元に残ります 金額は自塾の契約書から入れてください。当社が置いた相場ではありません
閉じる場合に出ていく支出のうち、譲ると浮くのは原状回復と什器処分の2つです。 解雇予告手当と前受金は、講師と生徒を引き継いでもらえるかで変わります。 受け入れられる譲渡代金の下限は、相手を探す期間にかかる家賃と人件費から、この浮く金額を引いた額です。

比較する順序

  1. 閉じる場合の支出合計を出す。
    第5章の7項目を金額で埋めます。これが譲る場合に浮く可能性のある金額の上限です。
  2. 譲る場合に残る支出を引く。
    解雇予告手当は、講師を引き継いでもらえなければ譲る場合にも発生します。前受金の扱いも引き継ぐかどうかで変わります。
  3. 相手を探す期間の費用を出す。
    探しているあいだも家賃と人件費は出ていきます。第4章の期限から逆算して、探す期間の上限を先に決めてください。
  4. 譲渡代金の下限を出す。
    手順3の探す費用から、手順2で浮いた額を引きます。これを下回る条件しか出ないなら、閉じたほうが手残りは多くなります。浮いた額のほうが大きければ、この下限はマイナスになります。そのときは代金がゼロでも、譲るほうが手元に残ります。

無償譲渡を勧められたとき

「原状回復費が浮くので、無償でも譲ったほうが得です」という説明は、手順1と2を自分で計算していないと検証できません。原状回復費が50万円なら、無償譲渡で浮くのは50万円です。それより高い条件が出る可能性を、確かめないまま手放すことになります。先に自分の数字を持ってから、条件を聞いてください。

買う側がどう投資回収を見ているかは、法人・多店舗のページで扱っています。相手の計算を知っておくと、条件の理由が分かります。

7. 譲渡価格は、相場ではなく在籍と講師で動く

いくらで売れるかを先に知りたくなりますが、学習塾の譲渡に相場表はありません。買い手が見ているのは、引き継いだあとに何人残るかです。同じ在籍数でも、学年の構成と講師が残るかどうかで金額は変わります。

本サイトでも金額は示しません。示せるのは、何が価格を動かすかです。ここを知らずに交渉に入ると、提示された条件がなぜその金額なのか分からないまま受けることになります。

価格を動かすもの なぜ動くか
在籍生徒数と学年構成 受験学年に偏っていると、翌年度に大きく抜けます。買い手は残る在籍で見ます
実効単価 月謝だけでなく季節講習と教材費を含めた1人あたりの年間額。名目の月謝より低くなるのが普通です
講師が残るかどうか 担当講師が辞めると生徒も動きます。買い手が最も気にする点です
賃貸借契約の承継可否 貸主の承諾が要ります。承諾が取れないと、教室ごと引き継ぐ前提が崩れます
前受金の残高 提供していない役務の対価は、引き継ぐ側にとって負債です。第8章で扱います
フランチャイズ加盟の有無 本部の承諾、契約の残存期間、譲渡制限の条項を先に確認する必要があります

1教室あたりの営業利益がどれくらいになるかは、法人・多店舗のページで政府統計から出しています。買い手は、その利益が何年で投資額に戻るかを見ています。先に相手の計算を知っておくと、条件を値切られているのか、前提が違うだけなのかを見分けられます。

本サイトは譲渡価格の算定を行いません。上の6項目は、条件の理由を理解して交渉するための観点です。実際の算定は、契約の形(株式譲渡か事業譲渡か)や税務の扱いによっても変わるため、有資格者にご確認ください。

8. 前受金は、返す前提の預り金として扱う

季節講習費、年間教材費、まとめ払いの月謝。受け取った時点では現金ですが、まだ提供していない役務の対価です。

口座に見えている残高が、そのまま使える額とは限らない(モデル) 季節講習費や年間教材費を先に受け取っている場合、その分は返す前提の預り金です 事業用口座 前受金 自由に使える分 畳むなら返す原資 譲るなら引き継ぐ負債 残高 個別指導方式の59.9%の事業所に、この前受金があります 判断の期限を計算するときは、残高からこの分を引いてから割ってください

読み方 口座の残高には、まだ提供していない役務の対価が混ざっています。季節講習費を前期にまとめて受け取っていれば、その講習を実施するまでは預かっているだけです。 畳むときはこれを返す原資が要り、譲るときは買い手が引き継ぐ負債になります。どちらの道を選んでも、手元の現金からこの分を差し引いて考える必要があります。

割合の出典: 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」(2020年)第5表(統計表ID 0003450271・事業従事者5人以上の部)。個別指導方式の14,695事業所のうち、受講料の前受金がある事業所は8,805事業所です。政府統計の総合窓口(e-Stat)のAPIから当社が取得し、割合は当社で算出しました。 帯の金額はモデルで、統計値ではありません。自塾の科目別の残高に置き換えてください。

返金の額と時期をどう書いたかで、精算の根拠が変わります。書面の記載事項は入塾時の書面のページで条文の号ごとに扱っています。

経済産業省・総務省「経済構造実態調査」(2020年)第5表(事業従事者5人以上の部)によると、個別指導方式の14,695事業所のうち、受講料の前受金がある事業所は8,805事業所で59.9%でした。半数以上の教室に、返す前提のお金があります。

学習塾は、法律に名前のある取引

消費者庁は継続して提供される役務のうち7つを「特定継続的役務」として挙げていて、学習塾はそのひとつです。ここでいう学習塾は「入学試験に備えるため、または学校教育の補習のための、学校(大学および幼稚園を除く)の児童・生徒・学生を対象とした学力の教授」を指します。対象は小学生・中学生・高校生等に限定されるという限定があり、提供の場所も「役務提供事業者の事業所その他、役務提供事業者がその役務提供のために用意する場所で提供されるものに限る(教室のほか、借り上げた集会所やマンションの一室も含む)」とされています。期間が2月を超えるもの、金額が5万円を超えるものであることが条件です(入学金・受講料・教材費・関連商品の販売など、契約金の総額が5万円を超えていると対象になる)。両方に当てはまると該当します。該当する場合、中途解約のときに請求できる額に上限が設けられています。

ただし、次は対象になりません。幼稚園または小学校に入学するための、いわゆる「お受験」対策は含まれない。浪人生のみを対象にした役務(コース)は対象にならない。高校生と浪人生の両方が含まれるコースは、全体として対象になる。自塾のコース構成と提供の形態によって扱いが変わるため、どのコースが該当するかを先に確認してください。

局面 請求できる額の上限
役務の提供開始前 1万1000円(契約の締結及び履行のために通常要する費用)
役務の提供開始後 提供済み役務の対価相当額 + 2万円または1か月分の授業料相当額のいずれか低い額

これらの額を超える請求はできません。既に支払われている場合は残額の返還義務が生じます。

畳むと決めた時点で、前受金の残高を科目別に書き出してください。季節講習費のうち何回分が未実施か、教材費のうち何冊を渡していないか。この残高は、閉じるために必要な現金に含めて考える金額です。手元の現金から差し引いてから、第4章の期限を計算し直してください。

9. 講師には30日前か、30日分の賃金が要る

労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第20条(解雇の予告)は、少なくとも30日前に予告する。予告しない場合は30日分以上の平均賃金を支払うと定めています。

予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合にその日数を短縮できるという定めもあるため、20日前の予告と10日分の賃金という組み合わせも取れます。

経営不振だけでは、予告なしにできない

条文には、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、または労働者の責に帰すべき事由による解雇は適用外と書かれています。ただしこの除外にあたるかは行政官庁の認定が必要で、経営不振はこれに含まれないのが通例です。判断は所轄の労働基準監督署にご確認ください。予告手当を見込まずに資金を計算すると、閉校の直前に足りなくなります。講師5人に1か月分を払うだけでも、月の人件費と同じ額が要ります。

伝える順序

  • 講師が先。
    講師には、保護者への告知より前に伝えます。引き継ぎを頼む立場でもあるため、順序が信頼を左右します。
  • 有期契約の残期間を確認する。
    期間の定めがある契約を途中で終わらせる場合、無期契約とは扱いが変わります。契約書の期間と更新の定めを見てください。
  • 引き継ぎ先を一緒に探す。
    譲渡の場合、講師が残ることが条件になることがあります。第7章の価格を動かす要因のひとつです。

個別の事案が除外事由にあたるか、有期契約の中途解約が有効かは、契約の内容と経緯によって変わります。判断は所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。本サイトでは条文の所在を示すところまでとします。

10. 生徒の行き先を決めてから告知する

告知の文面をどう書くかという記事は多くあります。ただ、保護者が最初に知りたいのは文面ではなく、来月から子どもがどこで勉強するのかです。

告知の前に決めておくことを挙げます。

  • 最終授業日。
    学年の区切りに合わせるかどうかで、告知の時期が変わります。受験学年がいる場合は、その日程を先に確認します。
  • 前受金の返金方針。
    科目別にいくら返すかを決めてから告知します。第8章の上限を超える請求はできません。
  • 引き継ぎ先の候補。
    近隣の塾に事前に相談しておくと、保護者に選択肢を示せます。教室ごと譲る場合は、通塾がそのまま続きます。
  • 問い合わせの窓口。
    閉校後も一定期間、返金と書類について連絡が来ます。誰がどこで受けるかを決めておきます。

文面の例は他の記事に十分あります。告知の前に決めるのは、最終授業日、返金額、転塾先、問い合わせ先の4つです。

11. 廃業の届出は、それぞれ期限が別々

個人事業として運営している場合に、税務署へ出す書類です。書類ごとに提出期限が違います。

書類 提出時期
個人事業の開業・廃業等届出書 事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで
所得税の青色申告の取りやめ届出書 取りやめようとする年の翌年3月15日まで
事業廃止届出書(消費税) 速やかに

提出期限が土曜日・日曜日・祝日等にあたる場合は、これらの日の翌日が期限になります(国税庁の一般的な取扱い)。

表の3行目は、消費税の課税事業者、または課税事業者を選択している方で、廃止する事業のほかに課税売上にあたる所得がない場合に出すものです。国税庁「事業を廃止する場合」の一覧では提出期限が「速やかに」とされています。

講師を雇っていた場合は、給与支払事務所等の廃止の届出も要ります。社会保険と労働保険に加入していれば、年金事務所と労働基準監督署にも手続きがあります。

法人の場合は解散と清算の手続きになり、必要な書類も期間も変わります。都道府県税事務所や市区町村への届出も、地域によって様式が異なります。提出先ごとの最新の様式と期限は、必ず所管の窓口でご確認ください。本サイトは書類の名前と、期限が別々であることを示すところまでとします。

12. 仲介に頼む前に、報酬の形を確認する

譲る場合、仲介会社やマッチングプラットフォームを使うのが一般的です。この分野の情報は、そうした会社が発信しているものが大半になります。

依頼する前に、報酬の条件だけは先に確認してください。

  • 着手金と中間金の有無。
    成立しなかった場合に戻るのか、戻らないのかを先に確認します。
  • 最低手数料の金額。
    小規模な譲渡では、料率ではなく最低手数料のほうが効いてきます。譲渡代金を上回ることもあります。
  • 専任の期間と、その後の縛り。
    他社に相談できない期間と、契約終了後も手数料が発生する期間の定めを確認します。
  • 売り手と買い手の両方から報酬を受け取る形かどうか。
    この形だと話は早く進みます。ただし売り手は高く売りたく、買い手は安く買いたいという利害は残ったままです。

中小M&Aガイドラインで確認する

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」が、仲介者の利益相反、専任条項の期間、テール条項、セカンド・オピニオンの取り扱いについて考え方を示しています。法人・多店舗のページで条項ごとに整理しているので、契約前に一度目を通してください。

ここでは会社名ではなく、契約前に見る条項に絞っています。

当社の立場について。当社は、教室の譲渡や事業譲渡のご相談もお受けしており、成立した場合に対価を受け取る可能性があります。本ページの計算は、譲るか閉じるかのどちらを選んでも同じ手順で出せるようにしています。条件が合わない場合は見送りをお勧めします。

よくあるご質問

赤字が続いていますが、まだ畳むほどではないと思っています。判断の目安はありますか。
赤字かどうかではなく、手元の現金があと何か月分かで見てください。畳むには時間がかかります。保護者への告知、賃貸借契約の解約予告、原状回復と明け渡し。この期間を現金が尽きる月から引いた地点が、判断の期限です。第4章に計算式を置いています。目安を1つ挙げるなら、解約予告期間の2倍を切ったら、続ける場合の資金繰りも同時に用意しておく段階です。
生徒がまだ在籍しているうちに畳むと言い出すのは無責任でしょうか。
在籍があるうちのほうが、選択肢は多く残ります。教室ごと引き継ぐ相手が見つかれば生徒の通塾は続きますし、原状回復の費用も発生しません。現金が尽きてから動くと、譲る相手を探す時間も、講師に予告手当を払う原資もなくなります。生徒がいる段階で動いたほうが、転塾先も譲渡先も探しやすくなります。
前払いでもらっている季節講習費は、返さなくてもよいのでしょうか。
提供していない役務の対価は、返す前提の預り金として扱ってください。学習塾は特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)の特定継続的役務提供にあたる場合があり、あたる場合は中途解約時に請求できる額に上限があります。上限を超える請求はできず、既に受け取っているなら残額の返還義務が生じます。第8章で条文の所在を示しています。
講師にはいつ伝えればよいですか。
労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第20条(解雇の予告)は、少なくとも30日前に予告する。予告しない場合は30日分以上の平均賃金を支払うと定めています。天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能になった場合は除かれますが、この除外にあたるかは行政官庁の認定が必要で、経営不振はこれに含まれないのが通例です。判断は所轄の労働基準監督署にご確認ください。実務では、保護者へ告知する前に講師へ伝える順序が取られます。保護者から先に伝わると、講師が生徒経由で知ることになります。
無償でも譲ったほうが得だという説明を見ました。本当ですか。
原状回復の費用が発生しない分は、たしかに有利になります。ただしその説明を持ち出すのは買い手の側で、譲渡価格をゼロに近づける材料にもなります。受け入れられる代金の下限は、相手を探す期間にかかる家賃と人件費から、譲ることで消える支出(原状回復や什器処分)を引いた額です。消える支出のほうが大きければ下限はマイナスになり、代金がゼロでも譲るほうが手元に残ります。第6章で計算の順序を書いています。
仲介会社に相談すると、費用はどれくらいかかりますか。
会社によって着手金の有無、最低手数料、成功報酬の料率が違います。本サイトでは特定の会社の金額を示しません。まず見るのは、着手金、中間金、最低手数料の3つです。譲渡が成立しなかった場合に何を負担するのか、売り手と買い手の両方から報酬を取る契約かどうかも確認してください。中小企業庁の中小M&Aガイドラインが、仲介者の利益相反について考え方を示しています。第12章で扱います。

本ページで参照した一次資料

  • 帝国データバンク「『学習塾』の倒産動向(2025年、速報)」(2026年1月4日公表/https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260104_gakusyu25y/)。2026年8月8日に当社が取得しました。集計対象は負債1000万円以上・法的整理による倒産です。2025年12月26日までの速報値。倒産した学習塾のうち約9割が資本金1000万円未満。なお、同じ2025年の倒産件数は調査会社によって46件と55件で異なります。集計の対象範囲と公表時点が違うためで、どちらも各社の条件のなかでは正しい数字です。本ページの本文で使っている2024年の退出248社は、下記の東京商工リサーチの集計です。なお負債1000万円未満の倒産は、どちらの集計にも入っていません。
  • 東京商工リサーチ「2025年『学習塾』倒産動向」(2026年1月17日公表/https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202296_1527.html)。2026年8月8日に当社が取得しました。2006年以降で最多。負債総額は前年比64.6%減。
  • 東京商工リサーチ「学習塾396社 業績動向調査」(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200880_1527.html)。2026年8月8日に当社が取得しました。2024年の倒産53社・休廃業・解散195社。割合と倍率は当社で算出しています。
  • 東京商工リサーチ「学習塾396社 業績動向調査」(2023年度・2023年4月期〜2024年3月期決算)(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200880_1527.html)。2026年8月8日に当社が取得しました。5期連続で売上高と利益が判明した396社の集計で、個人経営の小規模塾の多くは含まれない。業界全体の平均ではない。
  • 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第20条(解雇の予告)(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049#Mp-At_20)。2026年8月8日に e-Gov 法令API から条文を取得して確認しました。
  • 国税庁「個人事業の開業・廃業等届出書」(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm)、および「所得税の青色申告の取りやめ届出書」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2070.htm)。2026年8月8日に取得し、提出時期を確認しました。
  • 国税庁「事業を廃止する場合」(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/43.htm)。2026年8月16日に当社が取得し、事業廃止届出書(消費税)の提出期限が「速やかに」であることを一覧で確認しました。
  • 特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)(e-Gov 法令検索/https://laws.e-gov.go.jp/law/351AC0000000057)および消費者庁「特定継続的役務提供」(https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/)。中途解約時の請求上限を確認しました。
  • 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」(2020年)第5表(統計表ID 0003450271)。政府統計の総合窓口(e-Stat)のAPIから当社が取得し、割合は当社で算出しました。
  • 総務省・経済産業省「経済センサス‐活動調査」産業別集計(学習塾/民営事業所数)。2026年8月9日に e-Stat のAPIから当社が取得しました。統計表ID 0003215442(2016年(平成28年))、0004003273(2021年(令和3年))。事業所数は「その時点で営業している数」なので、廃業と新規開業の差し引きです。個々の塾の生存率そのものではありません。学習塾だけを取り出した生存率の公的統計を、当社は見つけられていません。
  • 国税庁「令和5年度分 会社標本調査結果について」(https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/kaishahyohon2023.pdf)。2026年8月9日に取得しました。全法人に占める欠損法人の割合。前年度比 0.1ポイント減。会社標本調査の対象は業種を問わない内国普通法人で、休業中・清算中の法人は除かれています。学習塾だけを取り出した数字ではありません。
  • 第4章の期限モデルは統計ではありません。手元現金・毎月の赤字額・解約予告期間はいずれも塾ごとに違います。自塾の契約書と通帳の数字に置き換えてください。この図は期限の求め方を示すもので、金額そのものを推奨するものではありません。

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