塾ビジネスナビ 無料相談

PRICE REVISION

塾の値上げの進め方|通知文の前に、契約のどこが変わるかを確認する

月謝を上げると決めると、まず悩むのは保護者への通知文です。どう書けば納得してもらえるかを考えているうちに、時期だけが過ぎていきます。

通知文を書く前に確かめることがあります。月謝は契約で決めた金額なので、変えるということは契約の条件を変えることになります。最初に見るのは、入塾時に保護者へ渡した書面です。

学習塾の契約には、法律で決められた記載事項があります。そこに何を書いたかで、変えられる範囲と、辞めると言われたときに請求できる額が決まります。

面談用の机に置かれた料金表の書類と電卓。椅子が向かい合わせに並んでいる
※写真はイメージです。特定の教室や事例を示すものではありません。

SHORT ANSWER

通知文から入ると、書面に書いた内容と食い違うことがあります。順番は、いまの書面を確認する、守る対象を決める、通知を設計する、です。

学習塾の契約は特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)の特定継続的役務提供に当たり得ます。当たる場合、契約後に交付する書面の記載事項が第42条第2項で定められていて、そのなかの第2号が「役務の対価」です。

該当の要件は第2章、書面の記載事項は第3章、退塾の許容ラインは第4章で扱います。 そもそも上げてよい位置にいるかは塾経営のページの受講料の分布で確認してください。 参照先の法令とその所在を示すものです。自塾の契約が特定継続的役務提供に該当するか、値上げをどう進めれば要件を満たすかの判断は、本サイトでは行いません。

1. 伝え方から入ると、順番が逆になる

値上げを決めたあと、多くの塾がまず考えるのは通知文です。いつ出すか、どう書けば納得してもらえるか。

ただ、通知文は、そのあとに作るものです。何を通知するかは、いまの契約でどう約束しているかで決まります。

入塾時に保護者へ渡した書面に、月謝がいくらで、いつまで、どう支払うかを書いているはずです。値上げはその金額を変える行為なので、まず、保護者に渡した書面の現物を出してください。

先に手元に出しておくもの

  • 入塾時に保護者へ渡している書面の現物。契約書、規約、入塾のご案内など、名称は塾によって違います
  • その書面に月謝と支払方法をどう書いているか。金額を直接書いているか、別紙の料金表を参照させているか
  • 途中でやめるときの扱いをどう書いているか
  • いつからその書面を使っているか。何年も前のまま更新していないことがあります

書面を渡していない場合もあります

口頭とパンフレットだけで入塾手続きをしている教室もあります。その状態で値上げの通知だけを出しても、変更した条件が記録に残りません。その場合は、通知文より先に契約書面を作り直します。

2. 学習塾は、法律に名前のある取引

消費者庁は、継続して提供される役務のうち7つを「特定継続的役務」として挙げています。学習塾はそのひとつです。

役務 期間 金額
いわゆるエステティック 1月を超えるもの 5万円を超えるもの
いわゆる美容医療 1月を超えるもの 5万円を超えるもの
いわゆる語学教室 2月を超えるもの 5万円を超えるもの
いわゆる家庭教師 2月を超えるもの 5万円を超えるもの
いわゆる学習塾 2月を超えるもの 5万円を超えるもの
いわゆるパソコン教室 2月を超えるもの 5万円を超えるもの
いわゆる結婚相手紹介サービス 2月を超えるもの 5万円を超えるもの

学習塾は、期間が2月を超えるもの、かつ金額が5万円を超えるものという要件です。月謝20,000円で1年間通う契約なら、どちらも超えます。 ここでいう学習塾は「入学試験に備えるため、または学校教育の補習のための、学校(大学および幼稚園を除く)の児童・生徒・学生を対象とした学力の教授」を指し、幼稚園または小学校に入学するための、いわゆる「お受験」対策は含まれない。浪人生のみを対象にした役務(コース)は対象にならない。高校生と浪人生の両方が含まれるコースは、全体として対象になる。

当たる場合、事業者には次の義務が挙げられています。項目名は消費者庁の解説ページの表記です。

  • 書面の交付
  • 誇大広告等の禁止
  • 禁止行為
  • 書類の閲覧等(前払方式で5万円を超える特定継続的役務提供を行う事業者が対象)
  • 契約の解除(クーリング・オフ制度)
  • 中途解約
  • 契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し

値上げでまず見るのは、最初の「書面の交付」です。

当たるかどうかの判断は、ここでは行いません

自塾の契約が特定継続的役務提供に当たるかは、契約の形態や期間の定め方によって変わります。参照先の法令とその所在を示すものです。自塾の契約が特定継続的役務提供に該当するか、値上げをどう進めれば要件を満たすかの判断は、本サイトでは行いません。本ページで示すのは、確認する場所までです。

出典: 消費者庁「特定継続的役務提供」(https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/)。2026年8月7日に取得しました。

3. 値上げで変わる書面の項目

特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)第42条第2項は、契約したときに交付する書面の記載事項を挙げています。契約を締結したときに、遅滞なく交付することが定められています。値上げで変わるのは第2号の「役務の対価」です。

値上げが触れる場所 通知文の前に、どの書類のどの項目が変わるのかを確認する 期間 2月を超えるもの かつ 金額 5万円を超えるもの → 特定継続的役務提供 に当たり得ます 契約後に交付する書面の記載事項(第42条第2項) 第1号 役務の内容と、購入が必要な商品がある場合はその商品名 第2号 役務の対価その他支払わなければならない金銭の額 第3号 前号の金銭の支払の時期及び方法 第4号 役務の提供期間 第5号 第48条第1項の規定による契約の解除に関する事項 第6号 第49条第1項の規定による契約の解除に関する事項 第7号 前各号のほか、主務省令で定める事項 値上げで変わるのは第2号。通知文の書き方ではなく、書面に書いた金額の話です

読み方 期間と金額の両方が要件を超えると、学習塾の契約は特定継続的役務提供に当たり得ます。その場合、契約後に交付する書面の記載事項が法律で決まっていて、そのなかの第2号が「役務の対価」です。値上げはこの号を変える行為にあたります。何をいつ配るかを考える前に、いまの書面に何をどう書いているかを見てください。

出典: 特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)(e-Gov 法令検索)/消費者庁「特定継続的役務提供」。2026年8月7日に条文と解説ページを取得して確認しました。 参照先の法令とその所在を示すものです。自塾の契約が特定継続的役務提供に該当するか、値上げをどう進めれば要件を満たすかの判断は、本サイトでは行いません。

値上げで変わるのは第2号の「役務の対価」です。ここを変えるということは、書面に書いた内容を変えるということになります。

通知文は、書面の修正内容が固まってから作ります。順番を逆にすると、通知だけ新しく、書面は古いまま残ります。

なぜ例文を載せないのか

値上げの通知については、そのまま使えそうな文例が広く出回っています。

ただ、書面に何をどう書いているかは塾ごとに違います。例文をそのまま使うと、自塾の書面と食い違う文が保護者に届きます。ここで示すのは、法律が記載事項として何を挙げているかまでです。

出典: 特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)(e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/351AC0000000057)。2026年8月7日に条文を取得しました。記載事項は第42条第2項の第1号から第7号までで、図には全号を条文の順に載せています。

4. 何人まで抜けたら、元に戻るか

値上げの検討でよく聞かれるのが「どれくらい辞めますか」です。当社は実測値を持っていないので、人数の予測は出しません。

代わりに計算できるのは、何人退塾すると値上げ前の水準に戻るかです。必要なのは、いまの在籍数、単価、変動費率の3つです。

値上げ率ごとの、許容できる退塾率 何を守るかで、抜けてよい人数が変わります 0% 5% 10% 15% 20% 25% +5% +10% +15% +20% 値上げ率 6.7% 4.8% 12.5% 9.1% 17.6% 13% 22.2% 16.7% 限界利益を守る 売上を守る

読み方 在籍60人の教室で10%上げる場合、売上を元の水準に保つなら9.1%(5人)まで、限界利益で見るなら12.5%(7人)まで抜けても戻ります。守る対象を先に決めないと、許容ラインが4割ほど変わります。

前提: 単価25,000円/月、変動費率30%。 売上を守る線は「値上げ後の人数 ×(1+値上げ率)が元の人数以上」、限界利益を守る線は 値上げ分が変動費に乗らない場合の計算です。 講師のコマ給が生徒の月謝に連動する契約なら、限界利益の線は売上の線に近づきます。 これは算数であって、実際に何人抜けるかを予測したものではありません。 当社は値上げによる退塾数の実測値を持っていません。自塾がそもそも上げてよい位置にいるかは 塾経営のページの受講料の分布で確認してください。 単価25,000円と変動費率は当社が置いたモデルで、業界平均でも統計値でもありません。

在籍60人の教室で10%上げる場合、売上を守るなら9.1%、限界利益を守るなら12.5%まで抜けても元に戻ります。人数にすると5人までと7人までです(境目はそれぞれ5.5人・7.5人相当なので、切り上げると線を超えます)。

同じ10%の値上げでも、売上を残したいのか限界利益を残したいのかで、見込める退塾の人数が4割ほど変わります。どちらで見るかを先に決めてください。

売上基準と限界利益基準で差が出る理由

値上げした分が変動費に乗らない場合、増えた金額はそのまま限界利益になります。講師のコマ給が生徒の月謝に連動していない契約なら、この形です。逆に月謝に連動する契約なら、限界利益の線は売上の線に近づきます。自塾の講師契約がどちらかを確認してから使ってください。

なお、この計算は「元に戻る」ラインです。値上げの目的が利益を増やすことなら、この線を下回る退塾で収まる必要があります。損益分岐生徒数そのものの出し方は塾経営のページに、自分の数字での試算は収支シミュレーターにあります。

5. いくら上げるかは、守るものを決めると出る

前章では10%という幅を置いて計算しました。実際に決めるときは、この幅をどこから出すかが先になります。

よく取られるのは「講師の時給が10%上がったから月謝も10%」という置き方です。これは限界利益のを元に戻す計算になっています。額だけを戻すなら、必要な幅はもっと小さくなります。

単価25,000円・変動費率30%の教室で、変動費が10%上がったとします。1人あたりの変動費は7,500円から8,250円へ、750円増えます。

限界利益のを元に戻すだけなら、増えた750円を単価に乗せれば足ります。単価に対して3%です。まで戻すなら10%必要です。同じ状況でも、限界利益の額だけを戻すのか率まで戻すのかで、必要な幅が3.3倍変わります。

額を戻す場合の必要な値上げ率は、変動費率 × 変動費の上昇率で出ます。変動費率が低い教室ほど、同じ費用増に対して必要な値上げ幅は小さくなります。

限界利益の額を元に戻すのに必要な値上げ率(当社の計算)
変動費率 変動費 +5%変動費 +10%変動費 +17.1%(最低賃金 直近5年)変動費 +35.3%(同 10年)
20% 1%2%3.4%7.1%
30%(本ページのモデル) 1.5%3%5.1%10.6%
40% 2%4%6.8%14.1%

固定費が増えた分は別に計算する

この計算は変動費(講師のコマ給・教材原価)が上がった場合のものです。家賃・光熱費・システム利用料のように在籍数と連動しない費用が上がった分は、この式では出ません。固定費が月50,000円増えた場合、在籍60人なら1人あたり月830円です。増えた固定費を在籍数で割った値で、値上げした分に変動費が乗らない契約のときはこれで埋まります。講師のコマ給が月謝に連動する契約なら、上げた分の一部が変動費に消えるため、増えた固定費を限界利益率で割ってから在籍数で割ります。同じ条件で月1,190円です。前章と同じく、自塾の講師契約がどちらかで額が変わります。変動費と固定費の両方が上がっているなら、2つを足して幅を決めてください。

ここで前章の線をそのまま当てはめないでください。前章の「何人まで抜けても元に戻るか」は、変動費の単価が上がっていない前提で引いた線です。

費用の増加を埋めるために上げた場合、1人あたりの限界利益は元に戻るだけです。費用増を埋めるだけの値上げでは、1人退塾した時点で限界利益の総額が値上げ前を下回ります。前章の線が使えるのは、費用が増えていないのに上げる場合、つまり利益を増やすための値上げのときです。費用増を埋める値上げと、利益を増やす値上げは、必要な幅も退塾の許容も別物です。

両方を同時に狙うなら、幅も足します。ただしこの場合、前章の線は使えません。費用増を埋める分も退塾で失われるため、許容できる退塾は上乗せした分だけで決まらないからです。値上げ後の在籍数で総額を出し、値上げ前の総額と直接比べてください。自分の数字での試算は収支シミュレーターでできます。

近隣の塾の料金は、どこまで見るか

上げ幅を決めるときに、近くの塾がいくらかを調べる方は多いと思います。見ること自体は構いませんが、近隣の料金は上限の目安にしかなりません。他塾の月謝には、その塾の家賃も講師の契約も入っていて、自塾の費用構造とは無関係だからです。

見るなら、範囲を絞ってください。意味があるのは同じ商圏で、同じ学年を取り合っている塾だけです。徒歩や自転車で通える範囲の外にある塾や、対象学年が違う塾の料金は、自塾の生徒の判断材料になりません。

そのうえで、比べるのは月謝の額そのものではなく年間で払う総額にしてください。月謝が安く見えても、季節講習や教材費を足すと逆転することがあります。保護者が実際に比べているのもこちらです。自塾の実効単価の出し方は塾経営のページで扱っています。

一度に上げるか、分けて上げるか

幅が大きいときに、分割を考えることがあります。6%を一度に上げるのと、3%を2年続けるのとでは、2年目の単価はほぼ同じです(3%を2回重ねると6.1%になります)。

違うのは2点です。1つは、1年目に取れたはずの増収を1年分見送ることです。もう1つは、書面を変える回数が2回になることです。特定継続的役務提供に当たる契約なら、記載事項が変わるたびに書面の手当てが要ります。在籍数が多いほど運用の負荷になります。

分ければ退塾が減るかどうかは、当社は実測を持っていないため断定できません。分割の判断材料として確かなのは、増収の先送りと書面の回数の2つです。

6. 値上げの理由は、外の数字で示せる

通知文で悩むのは、たいてい理由の書き方です。「経費が上がったため」だけだと、保護者には教室の都合に見えます。

理由を統計で裏づけた説明は、あまり見かけません。外側で起きている変化は、公開されている数字で示せます。

地域別最低賃金(全国・加重平均)の推移 月謝を据え置いていた期間に、外側で起きていたこと 700 800 900 1000 1100 円/時 2014年度の水準 780 2014 901 2019 902 2020 930 2021 961 2022 1004 2023 1055 2024 +35.3% 2014年度から2024年度で35.3%、直近5年でも17.1%

読み方 月謝を2014年度から変えていない教室は、人件費の下限がこれだけ上がるあいだ、価格を据え置いていたことになります。値上げの理由を説明するときに、教室の事情ではなく外側で起きた変化として示せる数字です。学習塾は正社員以外の雇用者が従業者の7割を超えるため、時給の設計がこの改定の影響を受けやすい構造にあります。

出典: 総務省「社会・人口統計体系」都道府県データ 基礎データ F労働(F6501_地域別最低賃金)(統計表ID 0000010106)。原資料は厚生労働省「地域別最低賃金」。2026年8月7日に政府統計の総合窓口(e-Stat)のAPIから当社が取得し、変化率は当社で算出しました。 最低賃金は下限であって、塾が実際に払っている講師時給ではありません。塾の人件費が同じ率で上がったことも、月謝を同じ率で上げるべきことも、この数値は示していません。 地域別に金額が異なるため、全国の加重平均は自塾の地域の値とは違います。

地域別最低賃金の全国加重平均は、2014年度の780円から2024年度の1055円へ、35.3%上がりました。

直近5年に絞っても17.1%です。同じ期間に月謝を変えていないなら、人件費の下限が上がるあいだ価格を据え置いていたことになります。

学習塾は正社員以外の雇用者が多いため、最低賃金の改定が時給の設計に届きやすい業種です。従業者398,703人のうち、正社員は50,629人で12.7%。正社員以外の雇用者が292,418人で73.3%を占めます。

最低賃金の数字を使うときの注意

最低賃金は下限であって、塾が実際に払っている講師時給ではありません。塾の人件費が同じ35.3%上がったことも、月謝を同じ率で上げるべきことも、この数字は示していません。この数字から言えるのは、月謝を据え置いていた間に最低賃金が上がり続けていた、という点です。なお正社員と正社員以外を足しても従業者の全部にはなりません。個人業主や有給役員などが別区分に入ります。金額は地域ごとに違うため、説明に使うときは自塾の都道府県の値を確認してください。

出典: 総務省「社会・人口統計体系」都道府県データ 基礎データ F労働(F6501_地域別最低賃金)(統計表ID 0000010106)。原資料は厚生労働省「地域別最低賃金」。雇用形態は総務省「2020年経済構造実態調査(乙調査)」【33学習塾】全規模の部 第3表(統計表ID 0003450265)。いずれも2026年8月7日に e-Stat のAPIから当社が取得し、変化率と割合は当社で算出しました。

7. 既存生徒を据え置くやり方について

在籍している生徒は当面そのままにして、新規募集分から新しい価格を適用する。実務でよく取られる方法です。

本サイトでは、この方法が法令上どう扱われるかの判断は行いません。ただ、運用として先に決めておいたほうがよいことがあります。

  • 据え置きをいつまで続けるか。期限を決めずに始めると、同じ学年に2つの価格が何年も並びます
  • 兄弟姉妹で入塾時期が違う場合にどちらを適用するか。同じ家庭に2つの価格が届きます
  • いったん退塾して再入塾した生徒をどう扱うか
  • 据え置き中の生徒に渡している書面を、どの時点で新しいものに差し替えるか

既存生と新規生で価格が違う運用はあります。ただ、どちらがどの生徒に適用されるかを教室側が説明できない状態は避けてください。適用の基準は1枚にまとめ、講師にも同じ説明文を渡しておきます。

ここは専門家に確認してください

据え置き期間の設定、全員を新価格に移す時期、その際の書面の扱いは、いまの契約の書き方によって変わります。参照先の法令とその所在を示すものです。自塾の契約が特定継続的役務提供に該当するか、値上げをどう進めれば要件を満たすかの判断は、本サイトでは行いません。確認するときは、本ページで示した特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)第42条第2項と、消費者庁の解説ページを一緒に見てもらってください。

8. 辞めると言われたとき、請求できる額には上限がある

値上げのあとに退塾の申し出が出た場合、中途解約の精算で請求できる金額に上限があります。

消費者庁の解説では、特定継続的役務提供に当たる契約について、事業者が請求できる額の上限が示されています。学習塾の場合は次のとおりです。

時点 上限
クーリング・オフ 法律で決められた書面を受け取った日から数えて8日以内であれば契約を解除できます
役務提供開始前 1万1000円(契約の締結及び履行のために通常要する費用)
役務提供開始後 提供済み役務の対価相当額 + 2万円または1か月分の授業料相当額のいずれか低い額

これらの額を超える請求はできません。既に支払われている場合は残額の返還義務が生じます。

値上げの前に確認しておけば、申し出があったときに受付と教室長で対応がずれにくくなります。規約に書いてある違約金の額が、この上限と整合しているかも見てください。

出典: 消費者庁「特定継続的役務提供」(https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/)。2026年8月7日に取得しました。参照先の法令とその所在を示すものです。自塾の契約が特定継続的役務提供に該当するか、値上げをどう進めれば要件を満たすかの判断は、本サイトでは行いません。

9. 値上げ前に確認する順序

値上げは次の順に進めます。通知文を作るのは、書面と運用を整理したあとです。

  1. 上げてよい位置にいるかを確認する 受講料の分布のなかで自塾がどこにいるかを見ます。塾経営のページで扱っています。
  2. いまの書面を出す 月謝と支払方法をどう書いているか、途中でやめるときの扱いをどう書いているかを確認します。
  3. 守る対象を決める 売上か、限界利益か。第4章の線が変わります。
  4. 上げ幅を決める 費用のどこが増えたのかから逆算します。変動費なら第5章の式、固定費なら増えた額を在籍数で割ります(値上げ分に変動費が乗る契約なら、先に限界利益率で割ります)。
  5. 据え置きの範囲と期限を決める 兄弟姉妹、再入塾、書面の差し替え時期まで含めて決めます。
  6. 中途解約の扱いを確認する 規約の違約金が上限と整合しているかを見ます。
  7. 専門家に確認する 1から6で出た論点を持って相談します。契約書面、料金の改定、中途解約のどこを直すかに絞って確認できます。
  8. 書面を更新し、通知文を作る 通知文は、更新した書面の内容と一致させます。

迷いやすいのは、売上と限界利益のどちらで見るかです。いまの在籍数と退塾率が分からないままでは、この選択も決められません。

退塾率から必要な新規入塾数を出す手順は塾経営のページにあります。

よくあるご質問

塾の値上げは、いつ告知すればよいですか。
本サイトでは告知の時期そのものを推奨していません。先に確認していただきたいのは、いま保護者に渡している書面に何をどう書いているかです。学習塾の契約は特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)の特定継続的役務提供に当たり得ます(期間が2月を超えるもの、金額が5万円を超えるものの場合。ただし小学校受験の対策や、浪人生のみを対象にしたコースは対象外です)。その場合、契約後に交付する書面の記載事項が同法第42条第2項で定められていて、そのなかの第2号が「役務の対価」です。値上げはこの号を変える行為なので、通知文の日程を決める前に、いまの書面の状態を確認してください。
値上げのお知らせの例文はありますか。
本サイトでは例文を掲載していません。文面をそのまま流用すると、自塾の契約書面に書いてある内容と食い違う可能性があるからです。掲載しているのは、書面の記載事項として法律が何を挙げているかと、その所在です。文面は自塾の書面の内容に合わせて作り、必要に応じて専門家に確認してください。
値上げ幅は何%が相場ですか。
本サイトでは相場の数字を出していません。同じ幅でも、変動費率と費用の増え方によって意味が変わるためです。相場ではなく、自塾の費用増から必要な幅を逆算してください。変動費(講師のコマ給・教材原価)が上がった場合、限界利益の額を元に戻すのに必要な値上げ率は「変動費率 × 変動費の上昇率」です。変動費率30%の教室で変動費が10%上がったなら3%です。限界利益の率まで戻すなら10%必要で、守るものによって幅が3.3倍変わります。家賃のように在籍数と連動しない費用が上がった分は、この式では出ません。値上げした分に変動費が乗らない契約なら「増えた額 ÷ 在籍数」、講師のコマ給が月謝に連動する契約なら「増えた額 ÷ 限界利益率 ÷ 在籍数」で1人あたりの必要増額が出ます。
値上げしたら何人くらい辞めますか。
当社は実測値を持っていないため、人数の予測は出していません。代わりに出しているのは、何人まで抜けたら値上げ前の水準に戻るかという計算です。単価25,000円・変動費率30%のモデルで10%上げる場合、売上を守るなら9.1%まで、限界利益を守るなら12.5%まで抜けても元に戻ります。まず、売上を維持したいのか限界利益を維持したいのかを決めてください。
在籍している生徒だけ据え置くやり方は問題ありませんか。
既存生徒を据え置き、新規募集分から新しい価格を適用する方法は実務でよく取られます。本サイトでは、この方法が法令上どう扱われるかの判断は行いません。確認する場所として、契約後に交付する書面の記載事項を定めた条文と、消費者庁の解説ページを本文で示しています。据え置き期間の設定や、いつから全員を新価格にするかは、書面の内容と合わせて専門家に確認してください。
値上げをきっかけに退塾したいと言われたら、違約金は請求できますか。
消費者庁の解説では、特定継続的役務提供に当たる契約の中途解約について、事業者が請求できる額の上限が示されています。学習塾の場合、役務提供開始前は1万1000円、開始後は提供済み役務の対価相当額 + 2万円または1か月分の授業料相当額のいずれか低い額です。これらの額を超える請求はできません。既に支払われている場合は残額の返還義務が生じます。自塾の契約がこれに当たるかどうかの判断は本サイトでは行いません。
値上げ以外に単価を上げる方法はありますか。
季節講習や教材の設計を見直して実効単価を上げる方法は、塾ビジネスナビの塾経営のページで扱っています。本ページは、月謝を上げると決めたあとの手順に絞っています。そもそも上げてよい位置にいるかどうかは、受講料の分布で自塾がどのあたりにいるかを先に確認してください。

本ページで参照した一次資料

  • 特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)(e-Gov 法令検索/https://laws.e-gov.go.jp/law/351AC0000000057)。2026年8月7日に条文を取得し、第41条・第42条第2項・第49条を確認しました。
  • 消費者庁「特定継続的役務提供」(https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/)。2026年8月7日に取得し、対象役務の要件、事業者の義務、中途解約の上限を確認しました。
  • 単価25,000円・変動費率30%は当社が置いたモデルケースであり、業界平均でも統計値でもありません。単価・変動費率とも自塾の実績に置き換えてください。

参照先の法令とその所在を示すものです。自塾の契約が特定継続的役務提供に該当するか、値上げをどう進めれば要件を満たすかの判断は、本サイトでは行いません。