AI IN CRAM SCHOOL
塾のAI活用は、どこから手を付けるか|使わない判断と、塾に適用されるルール
AIを塾で使うかどうかで手が止まっているとき、迷いの中身はたいてい費用ではありません。生徒の情報を入れてよいのか、間違った出力が出たときに誰が確認するのか、というところです。
費用は小さく収まります。保護者向けの文章を毎月50人分つくって、APIの実費は月58円から291円です。
生徒の情報をどこまで入れてよいか、出力を誰がいつ確認するか、学校で許される教材のコピーが塾でも許されるか。決める前に確かめる3つを、条文の原本から書いています。
当社はいずれのAI関連サービスの提供会社とも販売代理の関係を持っていません。一方で、ご相談の結果として事業者をご紹介する場合に、紹介料などの対価を受け取る可能性があります。
SHORT ANSWER
保護者向けの文章を毎月50人分つくって、APIの実費は月58円から291円です。費用で迷っているなら、そこは論点ではありません。
先に答えを出しておくのは、生徒と保護者の情報を外に出してよいかと、出てきたものを誰がどれだけの時間で確認するかです。ここが決まらないうちは、料金がいくら安くても入れる段階ではありません。
費用の内訳は第4章、情報の扱いは第5章、確認の体制は第11章で扱います。管理システムを入れるかどうかの計算は塾管理システムのページにあります。
1. 確認する人を決められないなら、まだ入れない
導入の検討は、たいてい「便利そうだ」から始まります。ただ、「便利そう」だけでは、どの製品もよく見えてしまいます。
先に答えを出しておくのは次の3点です。どれか1つでも答えが出ないなら、その業務にはまだ使わないほうが安全です。
- その作業は、毎回だいたい同じ手順で進んでいるか。手順が決まっているほど、下書きを任せて確認する形が成り立ちます。逆に、生徒ごとに判断が変わる作業は下書きの修正に時間が食われます。
- 生徒と保護者の情報を、外部のサービスに送ることになるか。送るなら、送ってよいかの確認が先に来ます。第5章で扱います。
- 出てきたものを誰が確認するか。その確認にかかる時間は、元の作業時間より短いか。ここを決めないまま始めると、結局は確認の作業が増えます。
3つ目でつまずく塾がいちばん多いはずです
1つ目と2つ目は考えれば答えが出ます。3つ目は、確認できる人が教室にいるかどうかという人の問題なので、考えても出てきません。第9章で学習塾の雇用構造を統計で見ますが、ここが確認体制の作りにくさに直結しています。
なお、この3点は当社が置いた判断の枠組みです。統計から導いたものでも、公的機関が示したものでもありません。
2. まだAIを使っていない塾が、いまも多数派
「もう遅れているのではないか」という不安から検討を始める方がいます。業界の実態を数字で押さえておきます。
経済構造実態調査(乙調査)全規模の部には、インターネットを活用した指導方法を採用しているかどうかが載っています。
2020年の全規模では、採用ありが22,291事業所、なしが29,779事業所。採用率は42.8%です。
規模別に見ると、採用率は大きく違います。従業者4人以下では25.3%、10〜29人では73.9%。単独の1教室では24.6%、チェーンの支社では77%です。会社以外の法人と個人経営に限ると23%でした。
| 区分 | 採用あり | 採用なし | 採用率 |
|---|---|---|---|
| 全体 | 22,291 | 29,779 | 42.8% |
| 従業者4人以下 | 6,782 | 20,010 | 25.3% |
| 従業者5〜9人 | 5,868 | 6,360 | 48% |
| 従業者10〜29人 | 8,282 | 2,920 | 73.9% |
| 従業者30〜49人 | 1,034 | 299 | 77.6% |
| 単独事業所 | 8,054 | 24,743 | 24.6% |
| 支社 | 13,134 | 3,914 | 77% |
| 会社 | 15,105 | 5,735 | 72.5% |
| 会社以外の法人・団体及び個人経営 | 7,186 | 24,043 | 23% |
4人以下という区分は、統計上の少数派ではありません。
学習塾の事業所は全国で52,070あり、そのうち26,791が4人以下です。全体の51.5%を占めます。
個人でやっている塾がまだ使っていないのは、業界の中で普通の状態です。焦って導入する理由にはなりません。
この統計が数えていないもの
この設問が聞いているのは、指導方法にインターネットを使っているかどうかです。オンライン授業や映像教材、タブレット教材の採用が入ります。生成AIの導入率ではありませんし、請求や入退室のシステム化とも別です。読み取れるのは、規模によってデジタルの使い方に大きな差があるという構造までです。
出典: 総務省「経済構造実態調査(乙調査)」【33学習塾】全規模の部 第4表(統計表ID 0003450266)/事業所数は同調査 第2表(統計表ID 0003450264)。当社が e-Stat のAPIから取得し、採用率は当社で算出しました。塾管理システムのページでは同じ設問の事業従事者5人以上の表を使っているため、母集団が違い数値も異なります。
3. 小さい塾ほど、1年で置いていかれた
同じ設問が2019年にもあります。1年で何が起きたかを見ると、業界の動き方が分かります。
全体は27.9%から42.8%へ、14.9ポイント伸びました。2020年は臨時休校のあった年にあたります。ただし何がこの変化を起こしたかは、この統計では分かりません。
読み方 全体では 27.9% から 42.8% へ 14.9 ポイント伸びています。ただし従業者4人以下は 17% から 25.3% への 8.3 ポイントにとどまり、10〜29人は 48.9% から 73.9% へ 25 ポイント動きました。同じ1年で伸び幅が3倍違い、この2区分の差は 31.9 ポイントから 48.6 ポイントに広がっています。
出典: 総務省「経済構造実態調査(乙調査)」【33学習塾】全規模の部 第4表(統計表ID 0003448907 および 0003450266)。政府統計の総合窓口(e-Stat)のAPIから当社が取得し、採用率は当社で算出しました。 この統計が数えているのは指導方法にインターネットを使っているかどうかで、生成AIの導入率でも管理業務のシステム化でもありません。2020年は臨時休校のあった年にあたるため、この伸びが恒久的なものかどうかはこの統計だけでは判定できません。乙調査のこの設問は2020年が最後の観測点です。
ところが伸び方は規模でまったく違いました。従業者4人以下は8.3ポイント、10〜29人は25ポイントです。同じ1年で、伸び幅に3倍の差がついています。
結果として、4人以下と10〜29人の差は31.9ポイントから48.6ポイントに開きました。この統計から言えるのは、規模の区分によって採用率の伸びに差が出たというところまでです。
「小さい塾ほど効果が大きい」は、条件つきで正しい
競合記事の多くが「小さい塾ほど効果が大きい」と書いています。当社の見方は次のとおりです。
効果の絶対量で言えば、教室数が多いほうが大きくなります。同じ仕組みを何教室にも展開できるからです。ここは当たり前の話です。
一方で、伸びしろは別です。手作業のまま回している教室ほど、削れる余地が残っています。請求も連絡も紙とその場の会話でやっている塾なら、最初のひとつを仕組みに寄せるだけで体感が変わります。
つまり効果の大小を決めるのは規模ではなく、いま自塾がどこまで仕組み化できているかです。すでに管理システムを入れて記録が残っている教室と、まだ手作業の教室では、同じAIを入れても得られるものが違います。上のグラフで4人以下の伸びが小さいのは、効果が小さいからではなく、動ける状態になっていない教室が多いからだと当社は見ています。
このグラフから言えるのは、2019年から2020年の変化まで
2020年は臨時休校のあった年です。この伸びが定着したのか、その年だけの対応だったのかは、この統計では分かりません。乙調査のこの設問は2020年が最後の観測点で、2021年以降の同じ表がないため、いまの差がどうなっているかも追えません。上の見方は当社の解釈であって、統計が示しているものではありません。
4. AIの費用は、ツール代ではない
導入をためらう理由として費用を挙げる方が多いのですが、実費を出してみると判断の材料になりません。
保護者向けの文章を毎月50人分つくる場合で計算します。
1件あたり入力1,500トークン、出力1,200トークンと置きました。
読み方 50人分つくって月58円から291円。どの構成でも、生徒1人分の月謝に届きません。導入するかどうかで迷ったときに、料金は判断の材料になりません。詰まる場所は料金ではなく、出てきた文章を誰が確認するかと、その確認にかかる時間です。
前提: 1件あたり入力1,500トークン・出力1,200トークン、月1回、50人分。 このトークン数は当社が置いた仮定で、実測値ではありません。実際の数はプロンプトの書き方と文章量で変わります。 為替は計算のために1ドル155円と置いた前提です。特定の日の公表レートではありません。 単価はAnthropic 公式ドキュメント Pricing(2026-08-06 取得)の公表料金です。Sonnet 5 の $2/$10 は2026年8月31日までの導入価格で、9月1日から $3/$15 になることが同ページに明記されています。 料金は各社が随時変更するため、検討するときは公式の料金ページで確認してください。
いちばん高い構成でも月291円です。生徒1人あたりの月間単価25,000円の1.2%にあたります。安いモデルなら月58円です。
この桁だと、どのモデルを選ぶかも大きな判断ではなくなります。月に数百円の差で迷うより、確認する体制のほうを先に決めたほうが早く進みます。
自分の教室の数字に置き換える
上の金額は、当社が置いた前提での計算です。自塾の数字にするには3つを入れ替えます。
- 件数。毎月何人分つくるか。在籍数そのままではなく、実際に文章を作る人数です。
- 1件あたりのトークン数。実際に使う予定のプロンプトと出力例を各社のトークン計測機能にかければ数分で出ます。渡す資料の量で数倍変わるので、ここだけは仮定を置かないでください。
- 単価。上の値は2026-08-06時点の公表料金です。Sonnet 5 の $2/$10 は2026年8月31日までの導入価格で、9月1日から $3/$15 になることが同ページに明記されています。検討する時点の料金ページで見てください。
計算式は「入力トークン × 件数 ÷ 100万 × 入力単価 + 出力トークン × 件数 ÷ 100万 × 出力単価」です。ドル建てなので、最後に為替を掛けます。桁を確かめるだけなら、この3つを入れれば足ります。
AI教材サービスの料金は、見積もりを取るまで分からない
ここまでの金額は、自分でプロンプトを書いてAPIを使う場合の実費です。atama+ やすららのようなAI教材サービスを導入する場合は、金額の桁がまったく変わります。ただ、当社が主要な事業者の公式サイトを確認した範囲では、塾向けの価格表を公開している事業者はありませんでした。記事によっては「生徒1人あたり月1,500円から3,000円」といった数字が出てきますが、出所が確認できません。導入を検討するなら見積もりを取り、その実数を収支シミュレーターの固定費に入れて、何人分の月謝にあたるかを見てください。
5. 生徒の情報を入れる前に確認すること
成績、出欠、面談の記録、保護者とのやりとり。塾が扱う情報のほとんどは個人情報です。これを外部のサービスに送るかどうかが、実務でいちばん詰まるところです。
本サイトでは、自塾の運用が法令の要件を満たすかどうかの判断は行いません。専門家に相談するときに何を見てもらえばよいかが分かる状態にすることを目的に、参照先だけを示します。
個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)/同ガイドライン(通則編)
個人情報保護委員会
生徒・保護者の情報を外部のサービスに送る場合に参照する法令とガイドラインです。自塾の運用が要件を満たすかの判断は本サイトでは行いません。
実務として先に確認しておくとよいのは、使っているサービスが入力した内容を学習に使う設定になっているかどうかです。同じ会社のサービスでも、個人向けの無料プランと法人向けの契約で扱いが違うことがあります。
いま自塾で使っているのがどちらの契約かを確認しないまま、講師が個人のアカウントで生徒の答案を貼り付けている状態が、いちばん危ない形です。ツールを導入していない塾でも起きます。
導入していない塾ほど、先に決めておく価値があります
正式に導入していない塾でも、講師が個人的に使っていることはあります。使ってよい業務と使ってはいけない情報を、1枚の紙にして講師に配るところから始めるほうが、ツールを選ぶより先です。
6. 文部科学省のガイドラインは、塾に宛てたものではない
教育とAIの話題では、文部科学省のガイドラインがよく引用されます。塾の経営者が読むときに、まず押さえておきたい点があります。
初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.2.0(2024年12月26日、文部科学省)は、自らの位置づけについて次のように書いています。
本ガイドラインは、教職員や教育委員会等の学校教育関係者を主たる読み手として、学校現場における生成AIの適切な利活用を実現するための参考資料となるよう、利活用に当たっての基本的な考え方や押さえるべきポイントをまとめたものであり、学校現場での生成AIの利活用を一律に禁止したり義務付けたりするものではない。
当社が2026年8月6日に本体PDFを取得して全文検索したところ、「学校」は118回出現しました。「塾」の出現は1回で、それは検討会議の委員の所属校名でした。「民間教育」という語は出てきません。
中身は塾の実務にも参考になります。ただ、このガイドラインに沿っているから塾として問題ない、という言い方は成り立ちません。宛先が違うからです。塾を名宛人にした公的な指針を、当社では確認できませんでした。
参考にすることと、根拠にすることは違います
保護者から「AIをどう使っているのか」と聞かれたときに、文部科学省のガイドラインの名前を出して説明を終えると、あとで説明が食い違う可能性があります。自塾で決めた運用ルールを自分の言葉で説明できる状態にしておくほうが確実です。
7. 学校で許される教材のコピーが、塾では許されないことがある
AIに問題を作らせる、過去問を読ませて傾向を分析させる。どちらもよく紹介される使い方です。著作物を扱う場面なので、条文の位置を確認しておきます。
学校での複製について定めた著作権法 第35条(学校その他の教育機関における複製等)は、対象を次のように書いています。
学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し(後略)
括弧の中に注目してください。営利を目的として設置された教育機関は、この条の対象から外れることが条文自体に書かれています。
では塾はどうなるか。改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)(2020年12月、著作物の教育利用に関する関係者フォーラム)が、該当しない例を具体的に挙げています。
そこに「専修学校または各種学校の認可を受けていない予備校・塾」が入っています。
一律に塾が対象外というわけではありません。該当する例のほうには各種学校と専修学校が入っています。認可を受けているかどうかは、確認する点のひとつです。
該当するかどうかは、この条が定める「学校その他の教育機関」の範囲や非営利性といった要件もあわせて見ることになります。本サイトでは該当性の判断は行いません。自塾がどうなるかは専門家に確認してください。
運用指針は法令ではありません
この指針は、教育関係者・有識者・権利者が参加するフォーラムで共通認識が得られた部分を公表したものです。指針自身も定期的な見直しを前提としていると書いています。実際の判断は条文と、必要なら専門家への相談で行ってください。本サイトでは該当性の判断は行いません。
8. AIに任せている仕事は、いま3つに寄っている
塾でAIに任せる仕事は、実務では次の3つに出やすくなります。どれも「間違っていたときに誰が気づくか」で扱いが分かれます。
採点と添削
小テストの丸つけや、記述の添削です。選択式や計算のように正答が決まっているものは、誤りが表に出やすい仕事です。講師の側でも突き合わせやすく、生徒から「これ合っているのに×になっている」と申告が来ることもあります。ここは任せやすい部類に入ります。
記述の添削は別です。出てきた講評が的外れでも、生徒には気づきにくくなります。「もう少し具体例を」と書かれていれば、そういうものだと受け取ります。誰かが読んでから返す前提でないと、気づかないまま渡ります。
問題やプリントを作る
単元を指定して類題を作らせる使い方です。作る速さは上がりますが、出てきた問題が使えるかどうかは、作った側が確かめるまで分かりません。答えが付いてくる形式だと、その答えが正しい保証もありません。第7章で見たとおり、既存の教材をそのまま読み込ませる形には別の問題もあります。
保護者に出す文面を整える
面談の記録から報告文を起こしたり、案内文の言い回しを整えたりする使い方です。3つのなかでは最も導入しやすい一方、外に出る文章なので、出す前に読む工程は外せません。生徒の名前や成績を入力する場合は、第5章で扱った確認が先に必要です。
順番を決めるなら
正答が決まっている採点は、最初の候補にしやすい仕事です。誤りが表に出やすいぶん、使えるかどうかの判断も早く付きます。記述の添削と問題作成は、確認の工程を先に決めてから入れてください。どれも、確認する人を置けない状態では入れないという第1章の話に戻ります。
9. どこに使うかは、講師の働き方で決まる
使う場所は業務の一覧から選ぶ、という書き方をよく見ます。ただ、塾の場合は先に見ておいたほうがよい数字があります。
読み方 正社員以外が 292,418人いますが、その労働時間を正社員に換算すると 85,207人分です。1人あたり0.29人分しか働いていない計算になります。研修を1時間やると、正社員なら1人1時間で済むところが、3.43人分の日程調整と3.43倍の延べ時間になります。使う業務を1つに絞る理由がここにあります。
出典: 総務省「2020年経済構造実態調査(乙調査)」【33学習塾】全規模の部 第3表(統計表ID 0003450265)。政府統計の総合窓口(e-Stat)のAPIから当社が取得し、割合は当社で算出しました。 就業時間換算雇用者数は、正社員以外の雇用者を正社員の労働時間に換算した人数です。離職率ではありません。学習塾だけを取り出した離職率は公的統計に存在しません。
学習塾の従業者は398,703人。うち正社員は50,629人で、全体の12.7%です。
残りの292,418人は正社員以外で、こちらが73.3%を占めます。
この292,418人の労働時間を正社員に換算すると85,207人分です。1人分の仕事を3.43人で回していることになります。
この勤務時間のなかで研修の時間を取るのは簡単ではありません。1時間の研修をやろうとすると、3.43人分の日程調整と、3.43倍の延べ時間がかかります。
広げる前に絞る
競合記事の対策はほぼ「使いやすいツールを選ぶ」「小さく始める」「研修する」の3つです。上の数字を見ると、3つ目を全員に広げるのは重くなります。
まず減らすのは、講師が新しく覚える操作です。使う業務を1つに決め、プロンプトは教室の側に置き、講師には結果の確認だけを渡します。覚えてもらうのは確認の観点だけになります。
逆に、講師がそれぞれ工夫して使うことを期待する形は、この雇用構造だと負担が大きくなります。研修の対象人数に対して1人あたりの稼働が小さいぶん、覚えてもらう量を増やすほど時間の確保が難しくなるからです。
10. 個別指導と集団指導で、効率化できる仕事が違う
AI活用の話は塾全体でひとくくりにされがちですが、集団指導と個別指導では、時間を取られる業務が別物です。
読み方 赤い棒は半数に届いていない区分、青い棒は多数派になっている区分です。10〜29人のところで入れ替わります。 規模が小さいうちは使っていない教室のほうが多く、それ自体は珍しい状態ではありません。ただし規模が上がると逆転するため、人を増やす計画があるなら、増やす前に決めておくほうが移行が軽く済みます。
出典: 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」(2020年)【33学習塾】事業従事者5人以上の部 第3表(統計表ID 0003450269)。政府統計の総合窓口(e-Stat)のAPIから当社が取得し、割合は当社で算出しました。 事業従事者5人以上の事業所が対象。「インターネットを活用した指導方法」の採用の有無であり、管理業務のシステム化の有無ではない。事業従事者5人以上が対象のため、個人で運営している教室はこの集計に含まれません。
経済産業省・総務省「経済構造実態調査」(2020年)【33学習塾】事業従事者5人以上の部 第8表から、2つの方式を比べます。
| 指標 | 集団指導 | 個別指導 |
|---|---|---|
| 1講座あたり在籍者数 | 5.43人 | 1.08人 |
| 1事業所あたり年間開設時間 | 2,216時間 | 4,579時間 |
| 在籍に占める新規の割合 | 28.1% | 35.8% |
集団指導は、教材をつくる時間が減る
1講座あたりの在籍が5.43人ということは、1回作った教材や小テストがその人数に届くということです。教材づくりを1時間減らせれば、その時間を複数の生徒への準備に回せます。
個別指導は、授業記録と引き継ぎに時間がかかる
1講座あたり1.08人ということは、教材を作ってもほぼ1人にしか届きません。教材づくりを短くしても、集団指導ほど時間は浮きません。
一方で1事業所あたりの年間開設時間は2.1倍です。開いているコマの数だけ授業記録が発生し、担当が変わるたびに引き継ぎが要ります。授業記録を書き、次の担当者がすぐ読めるように直す時間のほうが積み上がります。
この統計が数えていないもの
1講座あたり在籍者数は在籍者数を講座数で割った値で、1コマで同時に教える人数ではありません。個別指導は生徒ごとに講座を立てるため1に近い値になり、集団指導も科目別に講座が積み上がるため実際のクラス規模より小さく出ます。方式ごとの費用は含まれていないので、どちらが儲かるかはこの統計では分かりません。
出典: 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」(2020年)【33学習塾】事業従事者5人以上の部 第8表(統計表ID 0003450274)。当社が e-Stat のAPIから取得し、1講座あたり等の値は当社で計算しました。方式ごとの収益構造は業態別ガイドで扱っています。
11. 間違いが出たとき、説明するのは塾
「最後は人が確認する」という書き方はよく見かけます。ただ、確認したあとで問題が出たときにどうするかは、あまり書かれていません。
たとえば、誤った解説の入った教材を生徒に配ってしまい、保護者から問い合わせが来ることがあります。そのとき保護者に説明し、教材を回収するのは塾側です。ツールを提供した会社ではありません。
この対応にかかる時間を業務時間に数え入れないと、第4章の試算は実際の負担を映しません。
使い始める前に決めること
- その業務で、確認する人を1人決めておく。持ち回りにすると確認の粒度が揃いません。
- 確認する観点を、事前に3つ以内で書き出しておく。全部を読み直すやり方だと、元の作業より時間がかかります。
- 生徒に渡る前に止まる工程を1つ置く。渡ったあとは、回収の作業に加えて保護者への説明が要ります。
- 誰がいつ確認したかを残す。あとから経緯を説明できる形にしておきます。
確認の時間がどれくらいかかるかは業務によって違うため、当社では数値を出していません。実測していない数字を置くと、あとでその数字が一人歩きします。測り方は塾管理システムのページで扱っている業務の切り分けと同じ手順が使えます。
12. 管理システムと同じ土俵で比べない
塾管理システムと生成AIを同じ表で比べると、判断軸が混ざります。
| 塾管理システム | 生成AI | |
|---|---|---|
| 対象の業務 | 入退室・請求・成績の記録など、手順が決まっているもの | 文章を書く、下書きを作るなど、毎回中身が変わるもの |
| 買う対象 | 製品。月額が発生する | 買う対象がない。使った分だけの従量課金 |
| 判断の軸 | 月額を生徒何人分の限界利益で回収できるか | 入れてよい情報か。確認する人がいるか |
| やめるときのコスト | データの移行が要る | 使うのをやめれば費用は止まる |
差が出るのは、やめるときです。管理システムには請求や成績の記録が残るため、合わないと分かっても移行作業が発生します。生成AIは使うのをやめれば費用が止まります。
管理システムを入れるかどうかの計算は塾管理システムのページに、入退室の記録に絞った運用は入退室管理のページにあります。
よくあるご質問
- 塾でAIを使ったほうがよいですか。
- 使う業務によります。見るのは、その業務が毎回同じ手順で進むか、生徒や保護者の情報を外部に出すか、確認する人とその時間を用意できるか、です。3つ目に答えられないうちは入れないほうが安全です。確認の時間を計算に入れていないと、作業が減ったつもりで別の作業が増えます。なお、インターネットを使った指導の採用率は従業者4人以下の事業所で25.3%です(経済構造実態調査(乙調査)全規模の部・2020年)。使っていないことが特別な状態ではありません。
- 生徒の成績をそのままAIに入力してもよいですか。
- 本サイトでは、個別の運用が法令の要件を満たすかどうかの判断は行いません。確認する場所だけを示します。参照するのは個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)/同ガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会)です。実務では、使うサービスが入力内容を学習に使う設定かどうか、契約条項でどう定められているかを先に確認することになります。無料版と法人向けの契約で扱いが違う場合があるため、いま自塾が使っている契約がどちらかも確認してください。
- AIで作った教材を生徒に配って問題ありませんか。
- 著作権法35条は「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)」を対象にしています。改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)は、この条に該当しない例として「専修学校または各種学校の認可を受けていない予備校・塾」を挙げています。該当する例には各種学校・専修学校が入っているため、認可の有無は確認する点のひとつになります。該当性は他の要件もあわせて判断されるため、本サイトでは判断を行いません。学校で認められる扱いをそのまま塾に当てはめられるとは限らないので、教材の作り方については専門家に確認してください。
- 文部科学省のガイドラインに従っていれば大丈夫ですか。
- 初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.2.0(2024年12月26日)は、自ら位置づけとして「教職員や教育委員会等の学校教育関係者を主たる読み手として」と述べています。当社が2026年8月6日に本体PDFを全文検索したところ、「学校」は118回、「塾」は1回(委員の所属校名)出現し、民間教育事業者への言及は確認できませんでした。学校向けの考え方として参考にはなりますが、塾を名宛人にした文書ではありません。
- AIの費用はどのくらいかかりますか。
- 保護者向けの文章を毎月50人分つくる程度なら、APIの実費は月58円から291円の範囲です(前提と出典は本文の第4章にあります)。費用よりも、確認する人を置けるかどうかで導入が止まりやすくなります。なお、AI教材のサービスについては、塾向けの価格表を公開している事業者を当社では確認できませんでした。
- 小さい塾ほどAIの効果が大きいと聞きましたが本当ですか。
- 根拠を確認できませんでした。実測できるのは逆方向の数字です。インターネットを使った指導の採用率は2019年から2020年にかけて全体で14.9ポイント伸びましたが、従業者4人以下は8.3ポイント、10〜29人は25ポイントでした。同じ1年で伸び幅が3倍違い、区分間の差はむしろ広がっています。小規模だから有利という説明は、この統計とは合いません。
- AIを導入していることを、募集の訴求に使えますか。
- 使えますが、単体では差になりにくくなっています。AI教材を掲げる塾が増えているためで、「AIを入れている」だけでは比較の材料になりません。訴求として成立するのは、AIで空いた時間を何に振り替えたかを具体的に言えるときです。採点にかかっていた時間を演習の見取りに回した、といった形です。ただし本サイトは集客の打ち手そのものを扱っていません。訴求の設計や広告の運用は、当社の別サイトで扱っています。
- AIが進むと、講師は要らなくなりますか。
- 本サイトでは、そうはならないという前提で書いています。理由は本文の第1章と第11章にあるとおりで、AIの出力が間違っていたときに気づいて説明する人が要るためです。生徒と保護者に対して責任を負うのは塾であって、ツールの提供元ではありません。変わるのは講師の仕事の中身のほうで、答え合わせや文面づくりに使っていた時間が、つまずきの見取りや面談に移ります。人数が減るかどうかは、その空いた時間を何に使うかで決まります。
- 塾管理システムとAIは、どちらを先に入れるべきですか。
- どちらを先に入れるかではなく、それぞれ別に採算と運用を見たほうが早く決まります。管理システムは製品を買って定型業務を置き換えるもので、判断は月額を回収できるかどうかです。生成AIは買う対象がなく従量課金で、判断は入れてよい情報かと、確認する人がいるかです。管理システムの回収計算は塾ビジネスナビの塾管理システムのページにあります。
本ページで参照した統計・一次資料
- 総務省「経済構造実態調査(乙調査)」【33学習塾】全規模の部 第4表(統計表ID 0003450266/2019年は 0003448907)。項目名は「インターネットを活用した指導方法の採用の有無別事業所数」。2026年8月6日に e-Stat のAPIから取得。採用率は当社が算出しました。
- 事業所数は同調査 第2表(統計表ID 0003450264)。2026年8月6日取得。
- 総務省「2020年経済構造実態調査(乙調査)」【33学習塾】全規模の部 第3表(統計表ID 0003450265)。2026年8月6日取得。割合は当社が算出しました。
- 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」(2020年)【33学習塾】事業従事者5人以上の部 第8表(統計表ID 0003450274)。1講座あたり在籍者数などの値は当社が計算しました。
- 著作権法 第35条(学校その他の教育機関における複製等)(e-Gov 法令検索)。2026年8月6日に条文を取得して引用しました。
- 改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)(著作物の教育利用に関する関係者フォーラム、2020年12月)。2026年8月6日に本体PDFを取得して確認しました。
- 初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.2.0(文部科学省、2024年12月26日)。2026年8月6日に本体PDFを取得し、語の出現回数を機械的に数えました。
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)/同ガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会)。参照先として示したもので、内容の解釈は行っていません。
- API料金はAnthropic 公式ドキュメント Pricing(2026-08-06 取得)の公表料金です。料金は各社が随時変更します。